〈「ホワイト」から「角」を経ていま「オールド」に ここらで終わりか立身出世も〉という短歌を雑誌で読んだ。この人は昭和30年代生まれの自分と同世代だろうなと思った。大学生時代にウイスキーの水割りをコンパなどで飲み始めたが、そのときの銘柄はサントリーのホワイト(シロ)だった。周りの学生も多くはシロをやっていた▼田舎に帰ると、父親はオールド(ダルマ)を呑んでいた。後生大事にといった風に水で薄めてちびちびやっていたのを覚えている。あの頃の父親世代にとってオールドは、これを飲めるようになったぞというステイタスシンボルだった▼「何かいいことありそうな明日」という微笑ましいフォークソングがある。歌の中の主人公が顔なじみの酒屋のおやじと会話を交わす。「オールドにしてよ」「おや景気いいね。給料日前だからあんまり無理しないで」「それじゃやっぱりホワイトでいいよ」このやりとりがアップテンポなメロディーに見事に乗る▼これは「二十二才の別れ」でデビューしたフォークデュオ「風」の隠れた名曲。伊勢正三さんならではの感傷性はこの曲にはない。正やんの歌詞に市井の生活感が出てきたのはたぶん、大久保一久さんと組んでからではないかと勝手に思ってきた。先月、その大久保さんの訃報を新聞で目にした。遅まきながら、合掌。(21・10・27)

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