近年、EV(電気自動車)化進展を背景に自動車産業の構造変化が喧伝されている。各国政府が相次いでEV化促進策を表明、あすにもEV時代が到来するような雰囲気がある。しかし「100年に1度」というキャッチフレーズに惑わされず客観的に情勢を眺めると、漠然としたイメージとは異なる現実が見えてくるのではないか。
 例えば「ガソリンエンジンをはじめとする内燃機関の消滅で関連する部品メーカーの経営が厳しくなる」という見方。2025年ごろにエンジン車のみの車種をゼロにする目標を打ち出したトヨタだが、30年時点でもプラグインハイブリッドを含むエンジン車が9割を占めるとみるなど、自動車各社は当面、エンジン併用モデルを想定している。実際、世界の生産台数は新興国を中心に増加が見込まれ、インフラや車両価格などから液晶テレビやスマートフォンのような普及・置き換えは考えにくい。今後の10年のスパンで見る限り、エンジン関連の部品需要は逆に拡大していくだろう。
 またEVは部品の点数が少なく、家電など他産業からの参入が予想されたが、これも難しそうだ。自動運転技術などの進展もあり、自動車の車内は、これまでの移動空間から居住空間へと質的に変化しつつある。内装材などは外部調達も可能だが、快適性の基準となるNVH(騒音・振動・ハーシュネス)については車体開発での長年の蓄積が不可欠。乗り心地や快適性で新参企業が既存メーカーと互していくのは容易ではない。
 とくに年間数万台規模の商業生産は「モデル3」で苦労するテスラをみてもハードルが高いことがうかがえる。サプライチェーンをはじめ、組み立てや塗装などの生産ライン、品質管理システムは技術・ノウハウや知識・経験の固まり。あらゆる工程が機能的に連動し、製品には厳しい品質保証が求められる。どんなに優れた自動車を開発しても消費者の手に届けられなければ意味が無い。競合し得るのは、市場の成長を背景に技術のキャッチアップを加速する新興国の現地自動車メーカーに限られるのではないか。
 一方で自動運転やコネクテッド化などでは、家電・情報機器各社が保有技術をベースにシステム・部品レベルで活発に取り組んでいる。これまでのピラミッド型産業構造も、サプライチェーンの枠組みを越えた取引の拡大や部材・部品メーカーがシステムへのシフトを強めるなか変わりつつある。自動車産業が引き続き世界経済を牽引していくなか、変化の見極めと、それをビジネスとして取り込む戦略が求められる。

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