ネット社会を支えるモバイル端末から、環境・エネルギー問題解決を先導する電気自動車(EV)や再生可能エネルギー関連へ活躍の場が広がるリチウムイオン2次電池(LiB)。旭化成の吉野彰名誉フェローはノーベル賞受賞者の多くが受賞している「日本国際賞」(主催・国際科学技術財団)の2018年(第34回)受賞者に選ばれた。受賞分野は「資源・エネルギー、環境、社会基盤」。LiB実用化に向けた最後の課題を克服し産業化へ導いた電池システムの「概念の実証」(POC)が高く評価された。
 受賞が公表された1月30日は吉野氏の誕生日。「わが家では、きっといいことがある」といわれている古希を迎え、二重の喜びとなった。携わってきたLiBの開発は、ノーベル化学賞受賞者である福井謙一博士と白川英樹博士の業績なくして「実現できなかった」とし、「時代とともに変化するシーズとニーズ」を最適な組み合わせで「つなぐ難しさ」を強調。正負極材料、両極の間に挟み込むセパレーター、電解質が主要構成材料だが、複雑系である電池の開発は「一人ではなし得ない。今回の受賞が多くのLiB研究者の励みとなれば」と微笑む。
 吉野氏は1983年、電極といった構成材料などの先行研究に加え独自の要素技術を採用し、現在のLiBの原型を試作、2次電池として機能することを実証した。当時、電池業界ではニッケル水素2次電池に次ぐ「新型2次電池の研究に活発に取り組んでいたが、商品化にはつながっていなかった。負極材料が課題だった」と振り返る。
 そこで白川博士らが開発した導電性高分子のポリアセチレンに着目、LiBの負極材として有効なことを見い出した。その後、負極材料はカーボン系材料に変わるが、「シーズとニーズが点線でつながった瞬間だった」と目を輝かす。
 さらに大きな壁となっていた安全性と正極で電気を効率的に取り出すことは、発熱時に多孔膜の孔が塞がり反応を止める独自のポリエチレン(PE)系セパレーター、アルミ箔集電体で解決し、新型電池を完成させた。これに加え、「LiBの起電力(電圧)と機器の回路の低電圧化がマッチ」したことが、シーズとニーズを結びつけ、LiBの将来を拓く「最後の決め手となった」と解説する。
 大学では量子化学を学んだ。吉野氏は福井博士の孫弟子にあたり、現在の材料は「福井先生のセオリー(理論)の延長線上にある」という。博士号取得後は「新製品開発でしのぎを削る生き生きとした研究の場」を求め企業へ。入社当時、旭化成が新規事業開拓に力を入れていたことも後押しとなった。LiB関連の「基礎から開発、事業化へと一気通貫」で従事した。
 「川上と川下が直接結びつく産業構造に変わりつつある。化学や材料メーカーは川上に位置し、これまでは材料を分かっていればよかったが、今後は自ら材料を評価できる能力が重要」という。さらに「開発スピードは一段と速くなる。課題を解決するためには、綿密に組み立てた戦略とともに国や企業という枠を越えたグローバルな視点、オープンな姿勢での協業も不可欠。研究開発における学問領域も同様だ」ときっぱり。
 今後、ますます高度な専門知識を持った博士研究者の重要性が増す。すでに吉野氏を含め多数が企業で活躍しているが、「もっと評価されてもいい」。ただ、専門性を高めながらも「さまざまな仕事に対応できる柔軟性」を身につける必要がありそうだ。
(伊地知英明)

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