昨今、SNSなどで“No Plastic Wastes”ではなく、“No Plastics”を訴える人達がいるそうだ。確かに、現在の生活様式を選択の余地なく受け入れざるを得なかった若者世代はそう主張する権利があり、彼ら彼女らの問題意識は社会をより持続可能なものに変える原動力だ。しかしながらSNSへの投稿に使われているであろうタブレットや携帯電話には、プラスチックや石油由来化学品が多く使われている。現代社会でプラスチックの便益を享受していない人はいないに等しい。この現実を踏まえ、少し内省的な見方も必要ではないか。

 ポリ乳酸(PLA)年10万トン、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)同50万トン…。ごみ埋め立て削減に取り組む中国ではいま、生分解性樹脂の投資計画が目白押し。計画能力はまさに桁違いだ。一方、同国政府は石炭化学投資も省エネや排出削減を重視しつつ継続する方針で、石炭由来プラも増える。昨年末に開かれた中央経済工作会議でも、カーボンニュートラル(CN)は一夜では達成できず、時間をかけ社会経済の変革を進める必要があるとの旨が発表された。

 柔軟で加工しやすい極めて有用な素材であるプラスチックは、1869年に象牙の代替品として発明され、第二次世界大戦を機に米国で量産が本格化した。いまや世界を巡るグローバルコモディティであり、生産・使用者以外にも物流や金融を含め関連ビジネスに多くの人々が携わる。国際連合貿易開発会議(UNCTAD)によると、その取引規模は年間1兆ドル(約115兆円)を超える。

 最近、米中摩擦を受けて地政学の重要性がいわれるが、化学産業は誕生以来、国際政治や先進国・産油国の経済政策と不可分な関係にあった。日本企業もイラン革命など荒波を乗り越え、人々の生活を支えるためリスクを取ってプラスチックを含む化学品の安定供給を継続してきた。

 経済成長や雇用、日常生活と社会の安定を維持しつつCNを達成するには、多くのプロセスを経る必要がある。昨年、先進国の政府や企業がCN目標を相次いで打ち出したが、一挙に課題を解決できる万能薬は存在しない。

 “No Plastic,No Life”。原料はより持続可能になるだろうが、プラスチックなしの生活は考えにくい。スピード感を持って持続可能社会へどのように移行するのか、環境負荷低減に必要な多くの解をどう生み出していくのか。われわれの責務は、こうした化学業界の地道なプロセスを丁寧に追うことと肝に銘じたい。

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