政府が創設したムーンショット型研究開発制度のテーマ募集が始まった。わが国が抱えるさまざまな困難な課題の解決を目指し、人々を魅了する野心的な構想を掲げ、世界中から科学者の英知の結集を目指すものだ。胸躍るテーマによって、日本の未来に希望を与えることに期待したい。
 この制度では、2018年度補正と19年度予算合わせて1000億円以上を計上。最大10年間の支援も可能とする骨太なプログラムを推進する。政府は、広く一般から解決すべき社会課題と研究開発のアイデアを今月15日まで募集しており、最大10項目の設定を考えている。
 目指すところは、アメリカのアポロ計画をイメージすると理解しやすいか。「人類を月面に送り込み、安全に帰還させる」という明解なテーマの下に科学技術を結集した。アームストロング船長の月面着陸という国威発揚のイベントの背後には、計画当初から、宇宙産業における国益の拡大という現実的な狙いがあった。
 何よりも研究者の意欲をかき立てることが出発点となる。そこから大胆な発想を引き出し、複数の研究プログラムを走らせる。途中でステージアップできない研究プログラムも「失敗」とは考えない。違う枠組みのなかで社会実装に結びつける努力を続ける。多くのスピンアウトを生み出すことも目論みの一つだ。
 どのような目標を設定するかが成否を分ける。夢があると同時に、社会的課題の解決につながるものでなければならない。先月末、ムーンショット目標設定の検討に助言を与える「ムーンショット型研究開発制度に関わるビジョナリー会議」の初会合が開かれた。そこでは目標の設定で考慮する点として「インスパイアリング」「クレディブル」「イマジナティブ」の3つが掲げられた。研究者はもとより産業界、世界、国民を魅了するとともに、困難ではあるが決して不可能ではない範囲で、しかも従来の延長にない大胆な発想に基づく研究を誘発する目標が求められる。少子高齢化の進展や頻発する大規模自然災害、地球温暖化問題など、日本が抱えるさまざまな課題の解決につながるものでなければならないが、それが前面に出ると人を引きつけにくい。
 ムーンショットは手探りから始まるだけに、初期には批判や無関心の方が圧倒的に多いという。しかし現状維持では先細りになることは明らかだ。シニカルになってはいけない。夢を追う人々への敬意をもって見守りたい。

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