今年3月、下院総選挙が行われたタイ。軍の影響が濃く残る結果に終わり、6月の国会における首相指名選挙で軍事政権を率いてきた元陸軍司令官のプラユット暫定首相の「続投」が決まった。この5年間、軍事政権の下、超法規的措置を含め経済の高度化を目指す施策が強力に実行されてきたが今後、すべて国会で法案を通すことが必要になる。19もの政党で構成される連立政権は辛うじて過半数を上回る状況にある。足並みの乱れは容易に想像され、法案が通らず重要な経済プロジェクトなどが停滞する事態が頻発する懸念がある。軍事政権の力による安定から、軍の影響力が残る「半分の民主主義」による不安定に移行するタイの政治・経済に暗雲が漂い始めている。
 2014年のクーデター後、民政移管を目指して行われた下院総選挙では、親軍政党「国民国家の力党」が単独過半数を占めるのか、あるいはタクシン派の「タイ貢献党」が巻き返すのか注目されたが、結果は両党とも単独過半数に及ばなかった。国民国家の力党は、民主党やタイの誇り党など中小政党を取り込み連立による親軍派を形成。先ごろ行われた上下両院議員による首相指名選挙では、反軍政派による統一候補を抑え、プラユット氏が選任された。下院議員は国民選挙によるが、上院は軍政が事実上任命した非選議員で占められており、親軍派に有利な国会・選挙制に変えられたことが背景にある。
 6000社が進出している日系企業は総じて、この間の軍事政権による政治・経済の安定を評価してきた。しかし今後は軍事政権による強権は行使できなくなる。これまでは経済に明るいソムキット副首相をはじめ各界に精通した専門家を要職に配置し、半ば強引に諸施策を実行してきた。経済高度化を目指す「タイランド4・0」における土地収用など軍事政権の下、障害なく進めてきた背景がある。
 先ごろの就任あいさつで、プラユット首相は「国民の声を聞き、汚職撲滅と格差是正に取り組む」と語った。汚職撲滅とあえて主張しなければならないほど、タイの政治では収賄による造反などが絶えない。19もの政党による寄り合い与党内で、意見や利権の対立なくスムーズに案が通るとは考えにくい。まして親軍派に与した民主党は反軍政を主張する政党であるなど、新政権は最初から不安定さが明らかと言わざるを得まい。
 問題は何も解決していない。タイが抱える根本的問題は社会格差だ。出生を問わず能力があれば誰しも活躍できる社会をどう築くか。政治家や国民自身が原点を見つめ直す必要がある。

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