今年5月、インドのナレンドラ・モディ首相率いる与党インド人民党は総選挙で予想を覆す地滑り的大勝を納め、首相の2期目入りが決まった。1期目に収入透明化を目的とする高額紙幣廃止や、物流効率化を狙ったGST導入を実現した首相は今後、モディケアと呼ばれる医療保険制度の拡充や公衆衛生促進政策「スワッチ・バーラト(クリーン・インディア)」の実現を目指す。民族主義色が強いといわれるモディ首相だが、こうした政策はインドの歴史・文化そのものへの挑戦といえよう。
 日印関係が過去最良とされるなか、モディ政権継続は現地で事業拡大に取り組む日系企業にとっても追い風だ。インドは2024年に中国を抜いて人口世界第1位となり、中間層人口は今後10年で6億人に倍増するとの予測もある。農業従事者は現状6億人。肥料や農薬の流通、効率的な農場運営などで日系企業のノウハウを生かしたい。
 ただビジネス効率化を阻む問題も山積する。日系化学企業の駐在員が「生活にはある程度慣れても、ビジネスの難しさは時間がたつ程痛感する」と話すのが象徴的だ。競合は多くコスト要求が厳しい。インドの人々は中国と対比し、自国を「世界最大の民主主義国」と誇るが、時にこれは物事がなかなか進展しないことへの言い訳にもなる。
 他方、速い意思決定を求められるケースもある。例えば地方部の公共事業は公告から入札、契約までの期間が極めて短く、ある商社駐在員は「オーナー企業でない限りこのスピード感への対応は難しい」とこぼす。今年6月まで8カ月連続で前年割れが続く乗用車販売の低迷は化学産業にとっても懸念材料だ。
 化学品の多くは長年輸入超過だったが相次ぐ大規模投資で輸出入が均衡する製品が増え、調達地的な色合いも濃くなった。合繊原料エチレングリコールなどはバイオ品を手がける企業があり、持続可能性を重視した取り組みも増えている。
 化学業界でも、革新技術のタネを持つスタートアップの発掘や取り込みが重視されるようになった。米調査会社によると、評価額10億ドルを超すスタートアップの数がインドは世界3位。有数のスタートアップ大国だ。
 さまざまな要因により国内で職業の自由が事実上制限され、高度技能者への労働ビザ発給厳格化で米国への渡航が難しくなった今、インドの若者が成功への「ブルーオーシャン」であるIT分野に賭ける思いは一層強まっている。今後の成長を期待し日系企業を就職先に選ぶ若者もいる。化学企業にはこうしたインドの活力をすくい上げる仕組みづくりを期待したい。

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