タイの政治が揺れている。総選挙の実施が3月24日と決まった。軍事政権が続く同国で総選挙が行われるのは2011年7月以来の7年8カ月ぶり。軍事政権続投を目指すプラユット現暫定首相が率いる「国民国家の力党」と、東北部の農村を地盤とするタクシン元首相派の「国家維持党」の2大政党が争う構図だ。国家維持党はウボンラット王女を首相候補に擁立。これを弟のワチラロンコン国王が批判したことで王女の擁立はなくなったが、タイ選挙管理委員会が立憲君主制に敵対的な行為を行ったとして、国家維持党の解党を憲法裁判所に申し立てた。選挙前に解党命令が出ればタクシン派には大きな打撃となる。さらに王室を巻き込んだ大きな混乱も懸念され、タイ政治の安定がまた遠のいた格好だ。
 ウボンラット王女はプミポン前国王とシリキット王妃の長女で、外国人と結婚したことから王族籍からは外れているが、その後に離婚して帰国しているため、王族としての扱いを受けている。タクシン元首相と親交があり、タクシン派としては王女を擁立することで国民の支持を集める狙いだった。タイでは王室に対する尊敬が厚く根付いている。ただ王族籍から外れているとはいえ、実質的に王室の一員を首相候補に擁立したのは歴史上初めてであり、国民の間に動揺が広がったようだ。
 実姉の政治関与に対し、ワチラロンコン国王は「極めて不適切」と批判する声明を出した。これを受け、タクシン派は事実上の擁立断念を表明している。ただ王室は政治的に中立であることが慣例であり、国王が声明を出すこと自体異例だ。過去、市民や学生が軍と衝突して騒動となった際、プミポン前国王が自ら裁定に乗り出し、事態を収拾し、威信を揺るぎないものにした事例はあるが、今回のケースは、それらとは異なる。
 選管は先ごろ、王女を政治的に関与させたとして国家維持党の解党を憲法裁判所に申し立てた。過去に2度、タクシン派政党は裁判所命令で解党させられている。今回も選挙前にそうなれば大きな打撃で、デモなど騒動に広がる可能性がある。
 タイの経済も雲行きが怪しくなりつつある。タイ国家経済社会開発庁(NESDB)は18年のGDP実質伸び率予想を4・2%と下方修正した。中国をはじめ世界的な景気減速が懸念されるなか、貿易依存度が5割を超すタイにとって向かい風が強くなるのは必至。政府が力を注ぐ産業高度化戦略が軌道に乗るか、重要なターニングポイントを迎えるなかで何よりも政治の安定が欠かせないが、再び遠のく事態も懸念される。

新聞購読のご案内

PDF版のご案内

社説の最新記事もっと見る