YKKのファスナーの販売本数が、この3月期で初めて100億本を突破する見通しとなった。同社はファスナーの世界トップメーカー。生産開始は1934年にまで逆上る。その同社が数年来、重点的に取り組んできたのが数量面での拡大だ。
 前中期経営計画(2013~16年度)の策定に当たっていた12年。同社推定の世界シェアが金額で45%程度に達していた一方、数量では2割程度と、高付加価値分野での揺るぎない地位を示すともいえる数字をみた当時の吉田忠裕会長(現取締役)が逆に「大きな問題」と感じたことが、ボリュームの追求に舵を切るきっかけとなった。
 産業界において中国などの新興国が、安い労働力を背景に圧倒的な数量で攻勢をかけてきた状況に対し、日本の企業は高付加価値化、ニッチトップで数量は限られても利益の拡大を目指すという戦略をとるのが主流だった。しかし「その状況を放置すると、ボリュームゾーンで力をつけたメーカーに、いずれ脅かされる」と考え、数量面でも拡大を目指す中計を策定。「過去何十年もかけて、ようやく年間75億本売れるようになったのに、数年でさらに25億本伸ばすというのは、とんでもない目標だと思った」(大谷裕明社長)というが、6年かけて大台に乗せた。ファスナーの世界需要に正式な統計はないが、同社では400億本規模と推定している模様で、数量シェアは25%程度まで高まったとみられる。ただ吉田取締役は「5割は取らないと…」と語り、まだ満足した様子はない。
 増販を達成できたのは「スタンダード」と呼ばれるボリュームゾーンの開拓に成功したことが大きい。得意としてきた高級アパレルやスポーツアパレル向けの付加価値品だけでなく、汎用ゾーンにも斬り込み、それぞれの顧客にワン・トゥ・ワンで開発するための開発体制も着々と増強している。さらに「ベース・オブ・ピラミッド」と呼ぶ価格重視型の新興国内需向けの開拓にも乗り出し、インドやインドネシアで専用ファスナーの販売を始めている。
 衣料品や雑貨に広く使われるファスナーは、原型が19世紀末から量産されている歴史の古い商品。新興国などに競合企業も多数存在する。100億本の達成は、そうした環境でも商品の開発力や世界を網羅する生産・営業体制、確固たる戦略と経営の意志があればシェアが伸ばせることを示した好例だ。製品、業界によって置かれた状況は異なるが、YKKの成功を参考にグローバルシェアを抑えることを目指す意欲のある企業が多数出てくることを望む。

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