化学業界で市場ニーズに応えて製品・技術を開発する「マーケットイン/ニーズ・オリエンテッド型」の取り組みが加速している。背景には、中国勢などプレーヤーの増加にともなう競争激化を自社素材の総合力で勝ち抜いたり、電気自動車普及によるサプライチェーンの変化に耐え抜くといった狙いがある。川下分野への進出も、この文脈で捉えられる。マーケットインは新しいテーマではないが、その拡大に当たっては組織づくりや人材育成などで、まだ工夫の余地がありそうだ。
 国内化学企業のマーケットイン型事業は自動車材料のほか医療・衛生関連材料、包装材料などで多くみられる。包装材では3D印刷やデジタル設計技術により、樹脂メーカーが包材メーカーや小売りなどに直接、機能を提案しやすくなった。
 従来から、こうした動きが顕著だった自動車材料関連では最近、三井化学や三菱ケミカル、帝人、東レが、自動車部品や複合材料のメーカーなど、顧客に当たる企業を相次いで買収。川下進出は、最終顧客に近づくことで市場ニーズをより正確・迅速につかめる効果もある。
 ひと口にマーケットイン型事業・製品の開発と言うが”行うは難し”。担当者は、その分野に適用可能な、幅広い自社素材の特性・機能を熟知する必要がある。新規事業の立ち上げに当たっては研究から製造、販売まで社内複数部門をまとめ上げ、同じ方向を向かせるノウハウも不可欠。マーケットイン型事業開発には、こうした役割を担える「ゼネラリスト」の育成が必要だ。川下企業の買収に際しては、企業統治の実効性担保も課題だろう。
 最近では用途・市場別に事業組織を再編する動きもある。総合化学や樹脂メーカーは、海外市場でもマーケットイン型事業の拡大を志向するが、海外の最終顧客にとって日本企業は馴染みが薄いケースが少なくなく、まず自社を知ってもらう所から始めなければならない。日系企業は、海外でも事業ごと縦割り色が強い。そのメリットもあるが、情報収集やマーケティングにおける人員不足をカバーするため、海外でも地域・事業横断的な組織づくりが求められる。こうした取り組みはDICが先行しており、三井化学も東南アジアなどで力を入れている。
 いま生分解性樹脂が脚光を浴びているように、プロダクトアウト型の研究・事業開発や市場の2歩、3歩先を見据えた取り組みは重要だ。しかし企業の収益基盤安定、持続性維持には、マーケットイン型事業の拡大が不可欠。それに適した組織づくりや人材育成を期待したい。

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