化学企業の業績が好調だ。石油化学品市況の上昇を背景に、2021年度は過去最高を見込む企業も少なくない。石化の恩恵に隠れて見えにくいが、着実に収益を伸ばしているのが各社が力を注ぐ高機能材料である。リーマンショック以降、取り組んできた事業ポートフォリオ改革が功を奏しつつあるといえよう。ただ世界は、カーボンニュートラル(CN)はじめ前例のない変化の時代を迎えた。新時代に適合した材料・サービスを開発・供給するとともに、石化などボラティリティ(変動性)の高い既存事業を、メガトレンドに対応した事業へ生まれ変わらせるには大きな投資が必要だ。高収益をあげている今こそ、その準備を進める好機である。

 歴史的に高騰したビスフェノールA(BPA)の恩恵を受けた三井化学。21年度のコア営業利益は1600億円と過去最高を見込む。このうちBPAなど石化製品を中心とする基盤素材が725億円と全体の45%を占める。一方、成長3領域と位置づけるモビリティ、ヘルスケア、フード&パッケージングは合計985億円に上り「1000億円が視界に入ってきた」(中島一取締役常務執行役員)。

 今後の課題は(1)第4の成長領域として伸ばす方針のICT材料が全社に散らばるなかで、それをいかにまとめシナジーを高めるか(2)モビリティ事業のソリューションビジネスとして買収したアークがコロナ禍で受注が減るなか、いかに立て直すか(3)構造改革を進めてきた基盤素材事業のボラティリティを、さらに低減しつつ、ナフサクラッカー2基を擁する石化メーカーとしてCN適合型事業へいかに変貌させるか-などだ。

 旭化成も21年度業績予想を上方修正し、営業利益は2131億円と3年ぶりに最高記録を更新する見通し。石化市況上昇に加え、リチウムイオン電池(LiB)用セパレーター、半導体材料、イオン交換膜といった高付加価値品が利益を伸ばし、海外にも拡大し始めた住宅事業が高い利益を下支えする。ただ21年度最終の中期経営計画で掲げる営業利益目標(2400億円)には届かない想定だ。昨年買収した米国の医薬品企業ベロキシスはじめ、ヘルスケア事業で相次ぎ買収した案件を早期に収益源に育てることが、22年度から始まる次期中計の柱の一つとなりそう。

 一方、化学産業は、中長期的にカーボンニュートラルをはじめとするメガトレンドの解決に貢献する役割を担う。まずは個社の稼ぐ力に磨きをかけつつ、企業や産業の枠を越え、オールジャパンの力を結集して新時代に挑む準備を進める時期を迎えた。

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