世界に衝撃を与えたロシアのウクライナ侵攻は、エネルギー市場にも大きな影響を与えている。BP、シェルがロシア事業から撤退を表明し、欧州各国は石油・天然ガスのロシア依存を下げる動きを強めている。今後、どのような新しい秩序が形成されようとも、欧州がエネルギーをロシアに頼るのは危険だろう。再生可能エネルギーや水素エネルギーへのシフトを急ぎ、国によっては原子力発電を拡大させていく。最も即効性があるのはLNGの調達網を広げることであり、サハリン2LNGに多く依存する日本も対岸の火事ではいられない。

 石油・ガスの新規開発のための資金調達は厳しくなる一方だったが、少し流れが変わるかもしれない。以前からLNGについては石炭、石油から再エネ、水素へとつなぐ、移行期のエネルギーとして評価する見方はあった。今回、日本は欧州へのLNG融通に応じ、それが歓迎されたことは、LNGの重要性が改めて認識されたといえよう。

 近い将来、ロシアの天然ガスを世界市場から締め出すのなら、需要国はその相当する量を他の資源国から調達しなくてはならない。カタール、北米、それに高コストではあるが豪州などで生産能力を引き上げるのが現実的だ。

 LNGの新規開発には日本企業の貢献が期待され、なかでも日揮グローバル、千代田化工建設はLNGプラントのトップコントラクターの地位にある。両社の提案するLNGプラントはCO2回収設備の設置、動力の電動化、デジタル技術の活用などによりCO2排出や環境負荷を従来よりも大幅に抑えたものとなっており、カーボンニュートラル社会への円滑な移行に十分配慮されている。

 日本企業が、世界のエネルギー需給安定化に貢献できるのはLNGに限らない。欧州は水素エネルギーの実用化を一層加速させると予測されるが、日本企業が培った技術が生かせるだろう。メチルシクロヘキサン(MCH)、液化水素など水素キャリアは日本が独自に開発を進めてきた。北海の風力発電で製造するグリーン水素だけでは域内需要を賄えないため、域外から水素を調達する必要がある。水素発電も日本企業が優位性を持っている分野で、さまざまな規模の発電システムの開発が進んでいる。

 再評価の機運が高まりつつある原子力発電でも、安全性が高いとされる小型モジュール炉(SMR)実用化に複数の日本企業が関わっている。ロシア抜きのエネルギーサプライチェーン構築に痛みはともなうが、新しいエネルギー社会への移行を早めることになるだろう。

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