政府の新たな経済対策の裏付けとなる今年度の補正予算案の編成に向け、各省と財務省との調整が大詰めを迎えている。今回の経済対策における焦点の一つが、次のパンデミック(感染症の世界的大流行)に備えるためのワクチン製造拠点の整備だろう。経済産業省は、平時にはバイオ医薬品を生産し、緊急時にワクチン製造に転用できる生産設備(デュアルユース)の整備を支援するための予算を求めている。

 足元では、新型コロナウイルスの感染者数の減少により“喉元過ぎれば熱さ忘れる”ではないが、ワクチンの供給遅延という苦い経験は早くも過去のものとなりつつある。ただ世界的にパンデミックは10年周期で発生している。次に備えるためにも、国内製造拠点の整備とワクチン製造向け部材・消耗品を含めたサプライチェーンを構築は喫緊の課題といってよいだろう。

 米国ではバイデン政権が9月、総額653億ドル(約7・2兆円)のパンデミック準備計画を発表した。今後7~10年間にワクチン開発・製造に242億ドル(2・7兆円)、治療薬開発・製造に118億ドル(1・3兆円)、診断法に50億ドル(5500億円)を投じるという内容だ。とくにワクチンでは「パンデミック発生から100日以内に開発、130日以内に全国民に配布できる量を確保する」という野心的な目標を掲げている。新型コロナのような犠牲者を、次のパンデミックでは決して出さないという国家の意思がうかがえる。同計画には、ジェイク・サリバン米国家安保補佐官も署名している。

 隣国の韓国では、8月に文在寅政権が「K-グローバルワクチンハブ化ビジョンと戦略」を発表した。今後5年間に2兆2000億ウォン(2060億円)を投じる。2022年上半期までに国産の新型コロナウイルスワクチンを開発し、25年までに世界のワクチン市場で第5位以内を目指す方針。とくにワクチンの国内製造能力を増強し、グローバルワクチン生産ハブの主軸になるという目標を掲げる。

 すでに新型コロナワクチンを市場投入し、生産拠点を有する米国が10年間で2・7兆円、韓国は製造分野を中心に5年間で約2000億円を投じる。新型コロナワクチンも作れず、国内製造拠点も貧弱な日本においては、少なくとも韓国並みか、それ以上の予算を投じなければ、次に来る国難には立ち向かえないだろう。財務省が財政規律の緩みに警鐘を鳴らすのは、もっともな話だが、ワクチン関連の予算は、それに縛られてはならない。国民の命を救うことができるのか、国の本気度が試されている。

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