世界経済の減速傾向が一段と強まってきた。2019年度の化学企業の業績は踊り場を迎えており、これまで続いてきた増収増益路線を維持するのが難しい状況にある。しかし世界を、より愉快で快適なものに変える力を持つ化学は、今後も成長産業であることに変わりない。こうした時期にこそ、自社のビジョンを再確認したうえで、将来のあるべき姿に向けた大胆な戦略を練り上げるべきだ。
 堅調な成長を続けてきた世界経済は、18年後半に変曲点を迎え、19年に入ると月を追うごとに減速感を強めている。世界的シンクタンクによる経済見通しも、最新情報が発表されるごとに下方修正を繰り返している。米中貿易摩擦の加熱などを背景に、世界の貿易量が減少していることなどが背景だ。19年後半には回復するとの期待もあったが、ここにきて見通しは不透明になってきた。
 ただし化学企業の多くは、ここ数年にわたり予想を超える高い利益を獲得してきた。存続さえ危ぶまれた過去の低収益局面とは異なり、経営資源の充実ぶりは前例のないほどだ。年度の業績が減益になるとしても、歴史的には「良い時期」にあるといえる。さらに経済減速による各種のコスト減少や、ここにきて進んでいる円高などを利用し、大胆な戦略に打って出るチャンスとも言える。
 戦略の中身は企業によって異なるだろう。研究開発に資源投入し技術に一段と磨きをかけること、企業買収や合併などにより市場シェアを拡大すること、異業種との連携やデジタル革命などによって新たなビジネスモデルを打ち立てることなど、さまざまな戦略があり得る。そうした大胆な行動に企業を突き動かす原動力は何か。それは各社が持つ強い思い、すなわち理念や哲学にほかならない。
 世紀の後半以降、化学企業は需要家業界の栄枯盛衰に連動する格好で、時代の最先端産業に高度な素材・部材を供給してきた。世紀に入ると地球環境問題に代表される社会課題が台頭し、その解決に資する材料に事業に資源を集中させ、貢献するという自負を強めてきた。そうしたなかで技術を磨き、他社が追随できないオンリーワンの素材・部材を持つというプライドも獲得した。
 そしていま日本の化学企業に新たに求められるのは、そうした技術・素材・部材をベースに世界の人々を惹きつける「愉快な何か」を生み出すことだ。そこに人材も資金も顧客も集まってくるはず。日本の化学企業がそのリーダーとして世界を牽引するため、大胆な戦略を打ち出すことを期待したい。

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