YKKによる「パッシブタウン」の試みが進展している。パッシブタウンとは、太陽光や地熱、風といった自然エネルギーを活用することで電力や化石燃料などのエネルギー消費を極力抑えた建築物で、かつ集合住宅を表す。ドイツなどを中心に一軒家である「パッシブハウス」が建設され、住まいとして活用されている例は多いが、集合住宅は世界的にも珍しい。2025年までの全6期で250戸の住居を提供する一大プロジェクトとして、国内外の建築業界関係者から注目されている。
 民間部門のエネルギー消費量削減は大きなテーマ。石油ショック以降、産業界が長年にわたり取り組みを継続し、さらには東日本大震災でオフィス部門などでも弾みがついた省エネ対策だが、民間部門では電化製品の増加などもあって相対的に遅れ気味。20年に予定されていた住宅・建築物の省エネ基準の義務化も、世界の先進地域に比べ低いハードルだったにもかかわらず、小規模物件で導入が見送られるなど省エネ推進への歩みは遅い。そのなかで集合住宅での“パッシブ”の概念導入に期待が掛かる。単純な省エネだけでなく、住まい手が快適に満足して暮らせるかという視点を重視しているのもポイントだ。
 16年の第1および第2街区竣工に続き、17年に第3街区も完成し、居住者の生活が始まっている。そうした生活におけるエネルギー消費の動向や住民の満足度などについての詳細な調査結果がこのほど、パッシブタウンが立地する富山県黒部市で報告された。パッシブタウンは研究用の住宅ではなく、一般にも提供される賃貸住宅。そのため住まい方は各戸住民の自主性に任されており、建物の性能を最大限引き出すような使い方がなされていない可能性も高い。
 それでも、この調査報告が価値を持つのは、従来ほぼなかったパッシブタウンについての学術報告が大々的になされるからだ。調査は東京理科大学や東京大学などに籍を置く教授、准教授らを中心とする第三者的評価組織が行っており今後、国内外の複数の学会で45件の報告を予定している。また調査結果は年内の計画立案が見込まれる第4~第6街区にも生かされる。第1~第3街区は「ある意味採算を度外視して設計した」(YKK)もので、斬新性を求めたこともあって地方の住居にもかかわらず家賃は東京並み。将来的な普及にはコスト面も考慮すべきだが、規模が増えれば価格の下がる建材もあるはず。まずはパッシブの設計思想を広げることで、省エネと快適・健康を両立できる住宅の市場を広げる基礎を作り上げてほしい。

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