人口減少に加えてコロナ禍による市場縮小などにより、中小企業を取り巻く経営環境が厳しさを増している。中小企業は日本の労働者の雇用の受け皿であり、日本経済や社会の基盤に他ならない。コロナ禍は、こうした企業が抱える問題を改めて炙り出した。この機に企業自身はもちろん国や地方、金融機関などが一体となって課題解決について考えるべきだ。

 日本企業の約360万社のうち357万社、99%以上が中小企業であり、労働者の7割、約3220万人が中小企業に勤務している。化学企業も加工業者などの多くは中小で占められ、サプライチェーンの重要な構成要素を担っているのは言うまでもない。

 金融危機と比べ、コロナ禍では規模の比較的小さい中小企業が打撃を受けたのが特徴と言える。2021年3月期決算の減収企業率は55・9%と過半の企業が減収に追い込まれ、4社に1社が赤字を計上した格好だ。

 コロナ禍で経営の危機に直面した中小企業を支援するべく、国や地方は持続化給付金や雇用調整助成金といった給付型支援や無利子、無担保の貸付を積極的に実施した。各種支援策が奏功し、21年の全国の企業倒産件数(負債総額1000万円以上)は前年比22・4%減の6030件となり、1964年以来、57年ぶりの低水準となった。

 もっとも、手厚い資金繰り支援に隠されるかたちで、多くの企業が過剰債務という新たな課題を背負った。そもそも日本の中小企業には、コロナ前から低い生産性や後継者不足といった事業継承などの構造的な課題を指摘されてきた。21年に後継者問題で倒産した企業は過去最多の381件に達しているのだ。

 中小企業が、こうした状況を打破して事業再構築を進めるには、国や金融の支援やイノベーションを引き起こすための施策が欠かせない。過剰債務については全国銀行協会が中小企業版ガイドラインの検討を進めているが、企業の将来性など総合的に判断して欲しい。政府主導で私的整理の円滑化に向けた法整備を進める必要もあるだろう。

 中小企業側も、デジタルトランスフォーメーション(DX)や生産設備の自動化など大胆な構造改革に打って出るべきだ。化学業界に関してはカーボンニュートラルへの取り組みも経営体力のない企業には重荷。業界一丸で二酸化炭素の排出削減を進めるという視点も必要だろう。

 中小企業は雇用や個人消費などを支える地域経済の中核でもある。知恵を絞り、コロナ禍の経験を中小企業が持続的に成長していくための礎としなければならない。

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