治療が困難だった難病に対する遺伝子治療への期待が再び高まっている。最初のブームは1990年代だった。ただ当時は遺伝子を運ぶウイルスベクターの安全性技術が不足。副作用懸念が広がり、2000年代に熱は冷めた。現在はウイルスを安全に扱う技術がある。先端医療を安全に迅速に普及させる再生医療等安全性確保法と、承認制度を定めた医薬品医療機器等法が5年前に同時施行され、実用化への道筋ができた。
 日本遺伝子細胞治療学会の盛り上がりをみてもブーム再来を実感させる。最初のブームだった90年代後半の学会参加者は400人前後で推移していたが、00年代前半は200人強と半減した。それが18年には569人へと拡大し、先月半ばに開かれた今年の学会も盛況だった。
 研究者の増減はさほどだが製薬会社の参加が増えているという。実際、武田薬品工業、アステラス製薬、第一三共など大手は遺伝子治療に投資し始めた。タカラバイオやJCRファーマなど中堅も台頭している。
 世界でも開発は活発だ。欧州では12年以降に3品目、米国では15年以降に4品目がそれぞれ承認された。遺伝子治療は高額薬価が注目されるが、難病の既存治療を生涯続ければ遺伝子治療以上のコストになるとの指摘は多い。従来技術を上回る有効性、さらに社会復帰まで見込めるのであれば、日本でも共助の下で普及させる意義がある。
 日本では、これまでに2つの遺伝子治療が承認された。一つはベンチャーの国産品で、もう一つは海外品。同一成分を除くと欧米では5品が承認されている。なのに日本では海外品が1つにとどまる。遺伝子治療の治験は世界で2600件ほど進んでいるが、うち6割を米国が占める。これに英独中が続き、日本は41件と少ない。
 関連法規の林立も邪魔をしている。再生医療法以外に臨床研究法、生物多様性に関するカルタヘナ法、遺伝子治療等臨床研究に関する指針と複数あるうえに、遺伝子治療の品質・安全性に関する指針も先ごろ20年ぶりに改正された。法律・指針が混み合うなか、品質管理は必要以上に高い水準に合わせざるを得ず、研究を加速できない。
 自由診療を規制する法律は未整備で「民間クリニックで遺伝子治療と称する治療が横行している」と専門学会は警鐘を鳴らす。ゲノム編集技術を用いる遺伝子治療、細胞治療を法律で明確に分類することも必要だ。イノベーションを適切に評価する医療制度とともに、科学の進歩に合わせ規制を整えなければ、海外発の革新的な医療技術を日本に呼び込めないだろう。

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