政府は先ごろ、脱炭素を経済成長につなげるための政策を検討する「グリーントランスフォーメーション(GX)実行会議」の初会合を官邸で開催した。萩生田光一経済産業大臣をGX実行推進担当相に据え、経団連の十倉雅和会長(住友化学会長)をはじめとする有識者からの意見を踏まえながら脱炭素に向けた経済社会変革、産業構造転換を目指した今後10年間のロードマップを策定する。

 カーボンニュートラル(CN)実現には、今後10年で官民合わせ150兆円の投資が必要とされる。この巨額投資に向け(1)大型の予算措置(2)規制・制度的措置(3)研究開発、脱炭素技術の導入にかかる資金調達を下支えする金融パッケージ(4)GXリーグの段階的発展-など5つの政策を、より具体化して盛り込む。

 とりわけ予算措置では、150兆円もの投資を呼び込むため、まず政府が10年間で20兆円の予算を投入する方針。その施策として新たな国債である「GX経済移行債」の発行を検討している。現状、GX経済移行債は、将来見込まれる特定の税収を償還財源とする「つなぎ国債」として発行することが有力視されている。東日本大震災の復活・復興事業においても、将来の復興特別税収入などの財源を前提とし、つなぎ国債である「復興債」を発行した。

 GX経済移行債も、将来の炭素税や排出量取引制度をはじめとしたカーボンプライシング制度導入による税収を前提に、エネルギー対策特別会計からの発行などを想定している。GX経済移行債自体は経産省出身の嶋田隆首席首相秘書官のアイデアではないかと噂されている。嶋田氏は、財政規律を重視した故与謝野馨氏の大臣秘書官を長く務めた経歴を持つ。

 GX経済移行債の使途は、経産省が5月に取りまとめたクリーンエネルギー戦略・中間整理に明記された脱炭素関連施策が主となる見通し。化学産業では(1)廃プラのケミカルリサイクルおよび二酸化炭素(CO2)・バイオマスを原料にしたカーボンニュートラルプラスチックの技術開発支援(2)石炭火力自家発電設備の低炭素燃料対応設備への転換支援-などの施策が盛り込まれている。

 このなかでも石炭火力自家発電設備の燃料転換は、化学業界がCN実現に向けて、基金事業による複数年度にわたる支援を強く要望しているものだ。財務省が財政規律を緩める基金事業の新設に否定的ななかで、将来の償還財源を明確にするGX経済移行債によって燃料転換基金事業の予算を獲得できるのか。日本の化学業界の将来を左右するものになるだろう。

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