製薬業界の信頼を揺るがす事例が相次いでいる。特許切れ医薬品の自主回収問題である。抗潰瘍薬ラニチジンは承認を取得している製薬会社すべて回収に追い込まれた。先発品「ザンタック」を手がける英グラクソ・スミスクラインは全世界で回収を始めている。同薬にとどまらず近年、高血圧薬や抗菌薬も回収や欠品騒ぎが起きている。
 多くのケース、原因は有効成分である原薬の品質にある。ラニチジンは発がん性物質が混入していた。詳細な調査結果を待たなければならないものの、原薬をインドや中国から調達していた。昨年起きた高血圧薬バルサルタンの回収も、インドで製造された原薬に発がん性物質が混じっていたためだ。
 特許切れ医薬品の原薬は新興諸国で作られることが多く、出発原料や中間体も含め、中国が製造大国。環境規制が強まる同国では操業中止に追い込まれる関連企業が増え、原薬の高騰など市場は混乱している。あってはならないことだが、品質管理に齟齬が生じかねない状況ともいえる。原薬供給会社が集約され、品質問題は一気に世界に波及するようになった。
 化学合成技術に長ける日本もかつて原薬に優れた競争力を発揮していた。特許切れ医薬品の薬価に占める原薬の比率は5割程度と高い。2年に1度の薬価引き下げや後発薬の使用促進などを受け、日本の原薬ビジネスは儲かりにくくなっていった。設備投資に見合う環境になく、会社数は減少し技術者も離れていった。こうしたなかで特許切れ医薬品の原薬は中国や韓国、インドからの調達が加速した。
 後発薬各社は原薬の調達先を複数化したり、ホームページを通じて調達国を開示したりするなど、原薬の品質や調達の管理にあの手この手を尽くす。薬価制度では、医療上必要性の高い医薬品については不採算品の薬価を底上げするという仕組みを導入している。最低薬価を引き上げる議論も度々行われている。ただ原薬の品質問題は、従来の延長線上の、その場しのぎの対策だけでは解決が困難な局面にあるのではないか。
 優れた品質管理力を備える日本で、原薬ビジネスに再投資できる市場環境を整備することも一案だろう。薬価制度改革や企業の自助努力のみに頼るのではなく、減税措置など国内への設備投資を下支えする幅広い取り組みも求められる。医療用医薬品の相次ぐ自主回収問題は、日本の医療を崩壊させかねない重大な事態と捉えるべきだ。持続性ある医療システムを構築するために多くの関係者が知恵を絞り、実効性ある取り組みを講じなければならない。

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