世界は2050年のカーボンニュートラルに向け、大競争時代に入ったといわれる。企業はカーボンニュートラルに前向きであるかどうかが問われ、競争力の評価につながってくる。三菱ケミカルホールディングス(MCHC)が石油化学事業を切り離す方針を発表したのも、この文脈でとらえることができる。これほどのインパクトはないまでも、各分野で規模を問わず買収や提携が目に付くようになってきた。カーボンニュートラルに向かう中でチャンスを迎える事業は何か、逆風にさらされる事業はどれかを早急に見極め、ポートフォリオ再構築を検討する時機だ。

 MCHCは、収益力の高い機能化学品、医薬品、産業ガスに経営資源を集中させ、石化事業は分離して石油精製や石化企業との連携を模索することを決めた。石化製品は採算改善が見込めないだけでなく、製造過程でCO2排出量が多い。省エネルギー化、排出の少ない原燃料への転換、CO2回収・利用・貯留(CCUS)への対応など、今後どれだけコストがかかるのか想像することさえ困難だ。

 国内最大手のMCHCといえども、単独で石化事業を継続するのは難しいとの判断に立ったのだろう。われわれの生活からプラスチック製品がなくなるとは想像しにくい。カーボンニュートラルと両立するプラスチック産業は、産業全体、国家レベルで考えるべき課題といえる。

 日揮ホールディングスは、IHIから医薬品エンジニアリング事業を買収した。ライフサイエンス分野を強化したい日揮グループと、燃料アンモニアなどエネルギー分野に経営資源を投入したいIHIの思惑が一致した。

 日立造船は、日鉄エンジニアリングから廃棄物発電プラントを手掛ける独シュタインミューラー・バブコック・エンバイロメント(SBE)の買収を決めた。日立造船はSBEと同業の日立造船イノバ(HZI)の親会社。強い市場が異なり補完性が期待できるほか、欧州展開を視野に入れる水電解装置やメタネーション装置の展開強化につなげられる。日鉄エンジは日本、東南アジアに集中できる。

 JFEエンジニアリングは前期、三井E&Sから化学プラント、環境プラントエンジニアリング事業を買収しており、今後もM&Aの機会をうかがう方針だ。

 これら買収、事業再構築の直接の動機はさまざまだろうが、カーボンニュートラル実現に向かう大競争に生き残らんとする経営判断も背景にあろう。今後も業界内外を巻き込んだ再編、合従連衡が予想される。機敏かつ方向性を過たない対応が求められる。

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