インフレ圧力が一段と強まってきた。これまでは中国の石炭火力発電抑制・電力不足による原材料生産の停滞や、コロナ禍で北米を中心とした港湾での滞船問題による物流停滞などが価格上昇要因となっていたが、ここに来てロシア・ウクライナ情勢が上昇要因に加わってきた。

 ウクライナの首都キエフにある化学品メーカーと取引のあった日本の専門商社や試薬メーカーは、輸入できない事態に陥った。他方、ロシアから半導体用ガスを輸入している専門商社は、ロシアが侵攻した翌日の2月25日から決済ができなくなったという。

 日本は肥料原料の塩化カリウムを全量輸入しており、ロシアとベラルーシで約25%を占める。塩化カリウムの生産国はカナダが約65%で首位だが、世界的に偏在していることから値上がりの可能性が高いといえよう。ロシアとウクライナはヒマワリ油の輸出も盛んだが、情勢緊迫化にともなうヒマワリ油の供給減少を背景にパーム油の価格も上昇している。パーム油は界面活性剤の原料となり、ヘアケア用品や化粧品をはじめ幅広く利用されている。

 ニッケル価格はEVバッテリー向けの需要で昨年4月から上昇を続け、今年1月も大幅に上げた。そこにロシアの供給不安が加わって8日に急騰したため、ロンドン金属取引所は即日取引停止する異例の措置をとった。ニッケルはステンレスの原料であり、幅広いステンレス製品に影響が及ぶ。例えば化学品の輸送・保管容器として世界規模で利用が拡大しているISOタンクコンテナの最大手メーカーが、ニッケル高騰を受けて新規見積もり業務や受注対応を停止したという。ISOタンクコンテナ自体も昨年から需要が急速に増えて値上がりしていたが、ここにきて一段と上げ圧力が高まった。

 10日に日銀が発表した企業物価指数は前年同月比9・3%という高い上昇を示した。ガソリンを含む石油・石炭製品などのエネルギー関連や鋼材など幅広く値上がりの影響が現れたもようだ。企業の自助努力による吸収も限界を迎え、いずれ最終商品に転嫁されることになるだろう。

 昨年から少しずつインフレ圧力が強まってきていたが、ここに来て一気に高まりそうだ。日銀は物価上昇率2%の達成を目標に金融政策を続けてきた。このままだと予想しなかった外部要因によって目標を達成しそうだが、スタグフレーションとなる公算が高い。政府にはガソリン税を一時的に引き下げる「トリガー条項」の凍結解除など、さまざまな角度から悪性インフレにつながる要因を排除するような政策を期待したい。

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