薬事承認を受けた新型コロナウイルス感染症の抗原検査キットが薬局で販売できるようになって間もなく1カ月。薬局での取り扱いも徐々に進んでいるが、生活に根ざした存在にはなり切れていない。冬に到来するといわれる“第6波”を最小限にするためにも、手軽に使えるという抗原検査キットの特性を十分に引き出すことが欠かせない。一般用医薬品(OTC)化も含め、もう一段の規制緩和が求められる。

 厚生労働省は先月27日、同感染症を対象とした医療用抗原検査キットの薬局での販売を特例で解禁し、喉の痛みなど軽い症状を感じた際にセルフチェックのために買えるようにした。薬局で手軽に入手できるようにすることで陽性者を早い段階で捕捉し、医療機関への早期受診を促し、感染拡大防止につなげる。

 鼻などから採取した検体を用い、その場で結果が分かるのが抗原検査の特徴。特別な装置を使うことなく、30分程度の短時間で判定できる。PCR検査に比べ劣るとはいうものの、最近では性能も向上してきた。

 薬局での購入時には薬剤師による指導が必要で、説明内容の理解の確認、署名などを求める。さらにウイルス量が少ない場合は陽性と判定されないことから、陰性だったとしても継続して感染予防策を講じることも要請する。

 性能が担保されない抗原検査キットが市場に出回るなかで、薬事承認という、いわば国の“お墨付き”を得た製品が全国6万カ所を超える薬局で買えるようになった意義は大きい。しかし一般の人でも気軽に使える抗原検査キットの特性を最大限に発揮し、陽性者の早期発見・隔離を目指すとする当初の趣旨からすると、今回の特例解禁はまだ不十分といわざるを得ない。

 まず薬剤師による説明義務は緩和してよい。体調不良時のセルフチェックという目的からすると、感染の恐れがある状態での接触機会は減らすべき、というのが理由だ。厚労省では「買い置きし、軽い症状を感じた際の利用を想定している」が、使用期限があるうえ、決して安くない抗原検査キットを家庭に常備するのは現実的ではない。その都度、手軽に買える環境が望ましい。

 例えば、テレビ電話による説明を認める、あるいはオンライン通販でも買えるようにするなどの改善が不可欠だ。さらに踏み込んだ特例措置としてOTC化も選択肢になり得よう。またインフルエンザと同時診断できるキットも薬局で購入できるようにしてはどうか。先入観にとらわれることなく、思い切った措置を求めたい。

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