RNA(リボ核酸)を標的とする低分子医薬品の研究が注目を集めている。アンチセンス医薬品、siRNA医薬品などの核酸医薬品と同様、DNAから遺伝情報をコピーして運ぶメッセンジャーRNA(mRNA)を標的とする低分子医薬品だ。開発・製造コスト低減や経口投与による患者負担軽減などが期待され、次世代創薬の「本命」になる可能性がある。
 海外では、米アラキス・セラピューティクス、米エクスパンジョン・セラピューティクス、米リボメトリックスなど核酸標的低分子創薬を手掛けるベンチャー企業が相次ぎ立ち上がっている。グローバル製薬企業も、それらのベンチャーに出資し、将来的に医薬品になる可能性があるかどうか、動向を探っている。日本では、元武田薬品工業の研究者である中村慎吾氏が立ち上げたベンチャー、ヴェリタス・イン・シリコが先頭を走っている。ヴェリタスには三菱ガス化学も出資している。
 RNAを標的とする低分子創薬のコンセプトは30年ほど前からあった。1990年代にはリボソームRNA(rRNA)を結合することで細胞死を引き起こすアミノグリシド系抗生物質からヒントを得て、RNA標的低分子創薬が行われていた。2000年代に入ると、一部のmRNA内部にある「リボスイッチ」と呼ばれる調節要素を標的とする創薬でも取り組みがみられた。ただ、これらの創薬研究は、あくまで自然界の現象を参考にしたもの。標的とするRNAはほんのわずかで、創薬としての魅力は高くなかった。
 現在のRNAを標的とする低分子創薬は、従来と全く異なるもので「RNAには、もっと多様な化合物が結合するのではないか」「低分子が結合するRNA構造は数学的に大量に発見できるのではないか」との仮説に基づいている。それを高感度・高速のスクリーニング法と、標的構造を発見するインフォマティクスによって実証しようとしている。同時に、すでに核酸医薬品の開発で、その機能が分かっているmRNAを標的とすることで、実用化が加速できると考えられている。
 この未知のRNA構造を標的とする低分子創薬は、現時点ではあくまで仮説。本当に医薬品になるかは分からない。ただ薬になった場合、その標的数は数万単位あるとされ、将来性は無限大といえる。低分子創薬に強みを持つ日本の製薬企業にとっては既存の研究・開発・製造・販売インフラを有効活用できる可能性もある。医薬品になった場合に備えて動向を注視し、波に乗り遅れないようにするべきだろう。

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