廃棄プラスチック問題の高まりとともに、土壌環境や水環境などの自然環境で生分解される生分解性プラスチックに再び注目が集まっている。とくに東京工業大学名誉教授・理化学研究所名誉研究員の土肥義治氏と、カネカとの共同研究によって生まれた微生物生産系脂肪族ポリエステル、PHBH(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート重合体)は、水環境での分解性を持つため、海洋プラスチック汚染問題の解決に向けた一つの手段になると期待されている。
 ただ現在ある生分解性プラスチックだけで、すべてのプラスチックを代替できるわけではない。汎用プラスチックのポリプロピレン、エンジニアリングプラスチックのポリアミドなどを代替できるものは、今のところ存在しない。既存の生分解性プラスチックにも生産コストや物性、分解できる環境など、さまざまな課題があるため、新たな生分解性プラスチックが強く求められている。
 そこで問題となるのが、アカデミアを中心に生分解性プラスチックの研究開発が停滞している点だ。生分解性プラスチックは2000年くらいまでは生物系研究者、有機合成系研究者ともに活発に研究に取り組んでいた。しかし00年代前半に、生分解性プラスチックの限界が指摘されるようになり、カーボンニュートラルの観点からバイオマスプラスチックに注目が集まるようになると、有機合成系研究者はバイオマスプラスチック、生物系研究者は生体内で吸収される医療材料としての生分解性プラスチックに研究をシフトしてしまった。この流れは現在まで続いている。そのため化学合成系にしても微生物生産系にしても、新たな構造を持つ生分解性プラスチックはほとんど生まれていない。
 生分解性プラスチックの開発には長い期間がかかる。PHBHにしても共同研究のスタートから量産化まで24年間を要している。また00年以前は、生物系研究者と有機合成系研究者が、それぞれの手法を持ち寄って互いに協力しながら生分解性プラスチックの研究に取り組んできたが、そういったアカデミアの組織風土も徐々になくなってきたと聞く。新たな生分解性プラスチックの創出に向け、もう一度、有機合成系と生物系の研究者たちが協力できる風土を築いてほしい。そしてゲノム編集技術をはじめとする合成生物学、データサイエンス、AI(人工知能)などの最新の手法も積極的に取り入れて、地球環境に優しく、かつコストや物性に優れた多くの生分解性プラスチックが生まれることを期待したい。

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