「繊維」と聞いて多くの人は何を思い浮かべるだろうか。バブル崩壊以降、日本の繊維産業は縮小を強いられた。繊維メーカーでも「非繊維化」を合い言葉に、事業構造改革を断行したところが少なくない。しかし、その結果だけを捉え、繊維を斜陽産業と見なすのは誤りだ。グローバル市場では間違いなく、成長産業といえる。
 国内に目を向れば、繊維業界にとってマイナス要因は確かに多い。人口減少と高齢化が進むなか、若年層においても衣料品に対する購買意欲の低下が言われる。一方、グローバルでは人口増加とGDPの拡大傾向が続く。衣食住は人々の生活にとって欠かすことができない。人が増えれば単純に衣料品や繊維素材を使った生活雑貨が売れ、可処分所得が拡大すれば高級品を求める傾向が強まる。日本繊維産業連盟(繊産連)の鎌原正直会長(三菱ケミカル特別顧問)が言うように「潜在的には世界市場の拡大というチャンスが目の前に広がっている」のだ。
 このチャンスに応えようと、繊産連では2030年における繊維産業の「あるべき姿」実現に向け、提言書をまとめるという。9月にワーキンググループ(WG)を立ち上げ、素材からアパレル、小売りまでサプライチェーン全体で課題を抽出する計画だ。提言書は今年末までに作成し、公表するという。
 「大繊維時代に向けた提言を行う」(鎌原会長)というだけあって、内容は衣料品に止まらず、メディカルやエコロジー、資材分野など、繊維の新たな切り口を広げる議題が多数挙がりそうだ。また素材メーカーを中心とした川上団体だけでなく、百貨店などの川下側がWGへ参加する意義も大きい。数十年前の川上メーカーは「良い素材を作れば売れた」時代だったが、それは遠い昔。出口を見据えた活発な議論に期待したい。
 そして、この議論に欠かせないのがIoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)といったICT(情報通信技術)の利活用。産業全体として継続的な発展を図るためにも中小企業のIoT化は必須だ。繊産連も生産性向上などの成功事例を紹介することで導入を働きかける考えだが、業界全体でのバックアップが必要だろう。
 さらに近年話題を集めるパーソナルオーダーにもICTは不可欠だ。ニーズ多様化により、オリジナルの製品を所有したいという機運は今後ますます高まるだろう。また、このシステムは在庫レスにもつながり、ひいては衣料品の大量破棄といった問題の解決策ともなり得る。製販両面でのICT対策が、大繊維時代のカギを握る。

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