政府は「革新的環境イノベーション戦略」を年末までに策定することにしている。パリ協定長期成長戦略懇談会の第5回会合で安倍首相が策定に言及したもので、水素エネルギーコストを2050年までに現在の10分の1以下にし、人工光合成などのCO2有効利用技術(CCU)の商用化に向けたロードマップを盛り込むよう求めた。政府は成長戦略と位置づけ、技術開発で世界の脱炭素社会実現に貢献したいとしている。一つ望むとすれば、日本の技術にこだわりすぎることなく、海外の技術や製品も積極的に取り入れ、社会実装を加速する方向で絵を描いてもらいたい。
 既存技術の延長だけで脱炭素社会を実現するには、CO2を世界全体で70%削減ケースにおいても、人類は50年に年800兆円を投じる必要があると試算されている。途上国も550兆円の負担が求められる。いずれも非科学的数字といわざるを得ない。世界全体のカーボンニュートラル実現には非連続的なイノベーションによって、これらコストを低減することが不可欠だ。
 ただ、いくら立派な技術開発のロードマップを策定しても、社会実装が並行して進まなければ画餅に終わる。日本の再生可能エネルギーの価格は欧州に比べ極めて高い水準にある。太陽光発電パネルや風力発電機の技術に大差はない。太陽光発電パネルは中国製品が今や市場を席巻している。日本の高コストは普及が遅れたためだ。
 日本で本格的な導入が期待されている洋上風力発電。日立製作所の撤退により風車は海外製品を採用するしかないが、それは大きな問題ではない。コスト競争力のある海外製品、海外企業を日本に呼び込んで早期に市場を作ることこそ重要だ。
 一方、CO2フリー水素の製造には現状では水電解プロセスが最も有効だ。しかし水電解のコストは再エネコストが、そのまま反映する。天然ガスより安価な水素を製造するには再エネコストの低減が欠かせない。
 またCCUに関する技術開発が盛んだが、その経済性は見通しが立たない。CO2を原料に炭酸塩や化学原料を製造するにしても、CO2の回収費用に加え、反応させる水素のコストが問題となる。また製造した炭酸塩や化学製品の価格競争力も現状、計算する意味すらない。
 これら新しい技術を50年までに実現させる-。目標は結構だが、社会実装への道筋も合わせて見せてほしい。現在の石油をベースとしたエネルギー・化学製品から転換するのに、どれだけのコストを社会が負う必要があるのかも示す必要がある。

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