医薬品の品質問題の連鎖が止まらない。新薬を手がける会社や後発医薬品メーカー、一般用医薬品企業と多くの分野に広がり、有効性や安全性が証明された医薬品を安定供給するという製薬会社の信頼を根底から揺るがしている。一部の企業の不祥事としてすますのではなく、製薬業界全体が品質管理体制をいま一度点検する必要がある。

 昨年発覚した小林化工(福井県)の品質不祥事は健康被害を引き起こし、その後の日医工や長生堂製薬(徳島県)の業務停止は、後発薬を中心に医薬品の深刻な供給不安につながっていった。今年に入っても収まらず、3月には後発薬中堅の共和薬品工業(大阪市)とOTCメーカーの中新薬業(富山県)に業務停止命令が下された。

 品質問題の多くは、製造販売承認書に書かれていない製造手順や原料を製造に用いたり、虚偽の記録を作成して品質試験を無理矢理通して出荷するといった内容だ。政府が進める後発医薬品の振興策の下で市場競争が激化し、利潤を追い求めるあまり、承認書や手順書に基づいて医薬品を製造するという基本中の基本が抜け落ちてしまった。

 事態を重く見た日本製薬団体連合会(日薬連)は、2019年と21年に行政処分を受けた製薬4社に関する第三者委員会調査報告書から問題の原因を洗い出し、監督官庁の厚労省監視指導・麻薬対策課と協議したうえで再発防止策を作成。加盟する製薬団体や地域団体に通知を出した。

 再発防止策は、医薬品の製造管理・品質管理基準「GMP」の順守の再確認を求める内容だ。「手順書等に基づいて作業する」など、製薬業界にとって当たり前の項目が並ぶが、一部の企業の教訓ではなく、製薬業界全体が改めて検証する機会にしてほしい。

 製造現場の実態と承認書の整合性は取れているか、抜き打ちで自己点検を行うのも品質問題をあぶり出すのに有効だ。不正防止の観点から、原料の保管施設や製造区域に監視カメラを導入することも提案している。

 GMP運用の強化に向け、とりわけ重要なのは人材だ。品質管理、信頼性保証を担える人材は一朝一夕では育たない。長期的な育成計画や社内ローテーションの立案、キャリア人材の確保といった施策を充実させたい。

 日薬連は、特定の個人への業務や権限の集中を避けるよう指摘し、経営層への教育の強化も求めている。単に指示通りに業務をこなすのではなく、疑問があれば上司に直言できる自律的な人材を育てること-。そういった風通しの良い会社の仕組みづくりも重要になるだろう。

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