総合化学メーカーの医薬品部門が転換期を迎えている。三菱ケミカルホールディングスが約4900億円を投じて、連結子会社の田辺三菱製薬を来年1月をめどに完全子会社化すると発表。住友化学傘下の大日本住友製薬は、過去最大の30億ドル(約3200億円)を投じて英国企業と戦略提携した。デジタルやバイオを中心とする科学技術の急速な進歩が大がかりな再編を後押ししている。
 田辺三菱も大日本住友も、それぞれ財閥系製薬メーカーに独立系の老舗企業を合併するかたちで2000年代に発足した。当時は海外展開に成功していた武田薬品工業に続けと、国際創薬企業を目指して企業再編が相次いだ。低分子医薬からバイオ技術を用いた抗体医薬へと新薬の主役が交代する時期で、膨大な研究開発費を捻出するためにも企業規模が大事だった。
 田辺三菱は、海外で新薬を自社販売するにいたってないが、提携先を通じグローバルに事業機会を広げてきた。大日本住友は、自社開発の抗精神病薬を足がかりに米国に進出、ブロックバスターを作り出した。それぞれ得た収益を次世代の創薬研究やM&Aに振り向け、中堅製薬として柔軟に成長戦略を実行できる基盤を整えてきた。
 一方で近年の科学技術の進化は速い。抗体医薬は全盛期にあるが、核酸医薬、遺伝子治療、細胞医薬と次世代治療も台頭。創薬研究や治験、マーケティングにデータを駆使するのは当たり前で、最先端技術に挑戦するには膨大なコストを要する。一方で高額な次世代薬は国の医療財政を圧迫し、社会保障費抑制の圧力は強まるばかりだ。
 事業環境が激変するなかで、三菱ケミカルHDは2030年を見据え、田辺三菱の完全子会社化を決断した。グループに蓄えるデジタル、バイオ、素材などの技術と医薬品事業のノウハウを融合し、医薬品だけでなく予防や再生医療、医療機器など周辺分野でも新事業を作るという。製薬を分離してきた海外同業とは異なる独自戦略だ。
 抗精神病薬の特許切れ問題を抱えている大日本住友は、英社との提携でブロックバスター候補を2品手に入れた。さらに新薬開発などに生かせるデジタル基盤も獲得し、世界の潮流であるデータ駆動型製薬企業に飛躍する素地を整えた。一方、住友化学にとっては親子上場への対応が今後の課題になるだろう。
 時代に合わせて医薬品部門の形態を変えてきた三菱ケミカルHDと住友化学。同部門が成長の一翼を担うのは変わらないだろう。今回の決断が新たな未来の開拓につながれば、従来以上の成長機会を掴めるはずだ。

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