ブランド農産物の無断海外流出を防ぎ、知的財産権をどのように守り、管理していくのか-。この課題に対し農林水産省では、今春に検討会を設けて論議してきた。7月に中間論点整理を行い、国内外での侵害の監視・対応、海外ライセンスを行う「育成者権管理機関」を創設し、国を含め積極的に関与していく方向が定まった。組織形態や業務のあり方について、さらに検討を深め、2022年内に最終的に取りまとめる予定だ。知財侵害に対し、強い抑止力となるよう期待したい。

 農産物の知的財産権は、化成品などの特許権取得と異なる。新品種を開発・登録した人や事業者・団体組織を「育成者」と呼び、第三者が無断で開発品種を栽培するのを阻止できる。改正種苗法では昨年4月から、登録品種の海外持ち出し禁止や栽培地域に限定条件を付けることが可能になり、枠組みは整った。しかし育成者にとって、海外流出リスクの抑止力強化までにいたっていないのが実情である。育成者権者自ら海外で侵害の監視・対応を行うのが非常に難しいことや、権利数が少なく、侵害されても訴訟にいたる例が少ないこと、その専門人材が不足していることなどが背景にある。また出願から登録までの仮保護期間に流出した場合、対応が困難なことも挙げられる。

 中国に無断流出したブドウ品種「シャインマスカット」は、農水省の試算によると、中国の栽培面積は5万3000ヘクタール、日本(22年産1778ヘクタール)の約30倍と推定されている。もし育成者(農研機構)が許諾料(出荷額の約3%)を受け取れたならば、年間100億円以上という。中国で期限内に品種登録出願をしなかったことが響いた。

 育成者権管理機関の創設は5月に閣議決定した「農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略の改訂」に明記され、それを踏まえて検討会で議論が進んでいる。同機関は運営を民間主体とし、品目や対象国の選定、適切な契約・管理を行える体制を整備。公的機関などの育成権者が国内農業者の利益に資するかたちで権利を預けられるようにする。また国も関与する。侵害が多い国に対して早期に品種登録を行う海外出願の支援・代行や、仮保護期間中からの関与、商標権の活用、クラブ制のライセンスビジネスモデル構築、海外法律事務所との連携といった取り組みが考えられる。

 日本の農産物はアジアや米国で需要拡大が見込まれる。加えて高品質を保つ包装や物流資材・システムは、国際競争力を高め、ポテンシャルある農産物輸出を盛り上げる。化学業界にも新たなビジネスチャンスとなるだろう。

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