患者の遺伝情報を網羅的に調べて最適な治療法を探る「ゲノム医療」の実用化が、がん分野で進んでいる。厚生労働省は今年2月、東京大学、国立がん研究センター中央病院など11施設を「がんゲノム医療」の中核拠点病院として選定。次世代シーケンサーを用いて一度に複数のがん関連遺伝子を解析できるパネル検査(がん遺伝子パネル検査)が、保険診療で実施できるよう体制作りに着手した。中外製薬は3月に同じロシュグループの米ファウンデーション・メディシンが提供する、がん遺伝子パネル検査「ファウンデーション・ワンCDx」の保険適用を目指し、体外診断用医薬品として承認申請した。
 従来、がん種を特定し遺伝子ごとに検査していたものが、がん種を問わず関係する遺伝子を一度に解析できるため、患者に有用な臨床情報を効率的に取得できる。患者の限られた組織検体を有効活用できるのも利点。がん免疫療法のバイオマーカーとして、マイクロサテライト不安定性や腫瘍の遺伝子変異量が注目されているが、がん遺伝子パネル検査では、これらの指標も同時に検出可能だ。
 ただ、がん遺伝子パネル検査の実用化には課題も多い。まず高額な費用。現在は主に自由診療で実施されているが、検査料は60万~100万円に設定されている。今年4月から、がんゲノム医療の中核拠点病院では検査以外の費用が保険適用となる先進医療として実施されるが、保険財政が厳しいなか、対象患者は小児がん、希少がん、標準治療が効かなくなった進行がんに限られる見込みだ。検査でドライバー遺伝子変異が見つかっても、その遺伝子に対する薬剤が存在しない場合や、治験・臨床研究が行われていない場合もある。たとえ薬剤があっても適用外や未承認であれば治療は全額自己負担。ドライバー遺伝子変異は時間経過とともに変化するため、最適な治療薬が変わってしまうリスクもある。
 現在の一番の問題は、国立がん研とシスメックスが開発中の「NCCオンコパネル検査」以外、ほとんど検査パネルが海外企業製だという点だ。例えば米国企業の検査パネルを使うと、日本人患者の遺伝子解析データは米国企業の手にも渡る。そのデータから見つかった遺伝子変異の知的財産も米国企業が取得する可能性がある。そうなると国内の製薬・臨床検査企業は、高い特許料を支払いながら創薬や精密医療を展開しなくてはならない。将来的に国費が投入されることになる、がんゲノム医療において、日本企業がリードし、産業が活性化されるような仕組みが必要ではないか。

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