たんぱく質分解誘導薬(PROTAC=プロタック)という新たな創薬手法が注目を集めている。従来の低分子化合物は、病気の原因となるたんぱく質に結合し、その活性(機能)を阻害することで治療効果を発揮する。一方、PROTACは標的たんぱく質を狙って壊す低分子化合物で、従来の低分子創薬で難しかった、酵素活性を持たない細胞内たんぱく質などをターゲットにできる可能性がある。そのため海外を中心にPROTAC分野のバイオベンチャーが相次ぎ生まれ、開発競争が繰り広げられている。欧米のメガファーマも、これらのベンチャーに出資・提携することで、本当に医薬品になる可能性があるのか動向を探っている。
 PROTACは、人間の身体が本来持っているたんぱく質を分解する「プロテアソーム」という巨大複合体の機能を応用している。標的たんぱく質に結合する低分子と、たんぱく質分解のシグナルとして働く酵素に結合する低分子をリンカーでつないたキメラ化合物。細胞内で、その酵素と標的たんぱく質を近づけ、プロテアソームによるたんぱく質分解を誘導する。
 従来の低分子化合物は、主にはたんぱく質阻害剤であり、酵素活性を持たない(機能を阻害できない)たんぱく質をターゲットとするのは難しかった。PROTACは標的たんぱく質の活性を阻害するのではなく結合するだけでよいため、酵素活性を持たないたんぱく質にも応用が期待されている。酵素活性のない細胞内たんぱく質など、従来の分子標的治療薬で標的にしにくいたんぱく質は全たんぱく質の70%以上を占めるという。PROTACが実用化できれば創薬にパラダイムシフトを起こす可能性がある。
 そのため海外では米アルビナスなどのPROTAC開発ベンチャーが次々と生まれ、ファイザーやメルクなどのメガファーマからの潤沢な資金を用いて研究開発を加速。日本では2018年に武田薬品工業からカーブアウトして「ファイメクス」が設立されているほか、国立医薬品食品衛生研究所遺伝子医薬部の内藤幹彦部長が独自のプロテインノックダウン技術「SNIPER」を開発している。
 PROTACは低分子を2つを結合させたキメラ化合物であること、分子量が1000前後と大きいことなどから合成には相当な力量が求められる。優秀なメディショナルケミストリーを多く抱える日本の製薬企業にとっては、強みを発揮できる分野とも言える。低分子創薬の新たな可能性を広げるPROTACは、日本の製薬企業が力を注ぐべき分野といえるだろう。

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