哲学と宗教の歴史を並列的にたどる『哲学と宗教全史』を読んだ。哲学なら哲学、宗教なら宗教だけの歴史本はよくあるが、人類がどう考え、どう信じてきたかを併せて概観できる本はめずらしい▼著者は立命館アジア太平洋大学学長の出口治明氏。哲学も宗教も、人間が生きていくための知恵、すなわち「不幸といかに向き合っていくか」の知恵だと語る。そうシンプルに割り切ってしまえば、お堅い哲学も宗教も身近に感じられる▼散りばめられた歴史のエピソード、とくにイスラム教やアラビアに関するそれも興味深い。たとえば「人類の2大翻訳運動」。ひとつは大乗経典のサンスクリット語からの漢訳だが、もうひとつはイスラム帝国アッバース朝時代の9世紀、古代ギリシャの学術のアラビア語への翻訳だという▼バグダッドを中心としたこの翻訳運動があり、さらにその後ラテン語に翻訳されたために、いったんはヨーロッパで途絶えていたギリシャの古典が12世紀に復活する。そこから先はよく知られたルネサンスだ。現在の西欧文明の基礎にイスラム、アラビア世界の貢献があったのである▼この地域に関する日本人一般の知識が、欧州や中国などに関する知識と比べ豊富だということはないだろう。世界全般の歴史を偏りなく見直し、現状を客観的に認識・分析したいものだ。(19・11・6)

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