8月9日に建国記念日を控えるシンガポール。今年も7月から紅白の旗や垂れ幕で建物が彩られた。公的機関が入るビルも例に漏れないが、内部の政府関係者はお祭りムードに程遠い。隣国マレーシアで首相の座に返り咲いたマハティール・モハマド氏が、両国関係に負の影響を与えかねない動きをみせているためだ。マハティール新政権はGST(物品・サービス税)の廃止や複数の鉄道計画の撤回を決めたが、なかでも首都クアラルンプールとシンガポールを結ぶ全長350㌔㍍の高速鉄道計画の中止は、同国に大きな衝撃を与えた。マハティール氏は2061年まで契約を残すシンガポールへの水供給に関しても値上げを示唆し、同国政府は警戒感を強めている。
 1965年にマレーシア連邦を追放されるかたちで建国したシンガポールだが、両国は今も持ちつ持たれつ。互いに最大の輸出先であり、シンガポールの通貨バスケット制はマレーシアリンギットへのペッグ率が最も高いとされる。マレー半島最南端のジョホール州と、その対岸に位置するシンガポールとの関係はとくに強い。週末には多くのシンガポール人が物価の安いジョホールで買い物を楽しむため、国境は大混雑。逆にシンガポールで働くジョホール州民も多い。同州の大規模工業都市計画「イスカンダル」には多くのシンガポール企業が参画し「マレーシアの、シンガポール人による、シンガポール人のためのプロジェクト」とも呼ばれる。製油所・石油化学コンビナートRAPIDは同計画の一部で、化学産業が集積するシンガポール・ジュロン島とのバーチャルな統合を期待する声も上がる。
 切っても切れない両国経済関係だが緊張感もはらむ。天然ガスや水をマレーシアから輸入するシンガポールはその永続性に強い危機感を抱き、海水淡水化技術の導入やLNG輸入元の多様化に力を入れてきた。
 マレーシアの株価や通貨リンギットは安定推移しており、日本人駐在員は「経済に混乱はない」と話す。GSTは9月に廃止されるが、同時に売上税とサービス税(合計税率16%)が再導入される。産業界にはマハティール政権に汚職撲滅を期待する声も強い。
 「彼の出馬なくして政権交代はなかった」と言われるマハティール氏だが、そのカリスマ性は隣国との緊張を高める作用も持つ。両国は域内経済の先導役で、産業デジタル化や自由貿易網拡大など目指す方向は同じ。東南アジアの持続的発展に向けてマレーシアは地域主義を堅持し、シンガポールとの友好関係を維持強化すべきだ。

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