タイの総選挙の雲行きが、また怪しくなってきた。延期が繰り返され、ようやく来年2月に実施する方向だったが、さらにに延期される可能性が浮上している。軍政は先ごろ、2016年に死去したプミポン前国王の長男として即位したワチラロンコン国王の載冠式を、総選挙よりも前に行う方針を示した。載冠式は準備に6カ月以上かかるとみられる。日程的な影響が考えられるため、再び選挙を先延ばしするのではとの見方が強まっているもの。東南アジアで最も日系企業が進出しているタイは、周辺国にはない産業の厚みなどを武器に「中進国の罠」に陥らないよう懸命な取り組みを始めている。持続的な経済成長を邪魔せぬよう、政治の安定化が何よりも待たれる。
 クーデターによって軍政となってから5月で丸4年が経過したタイでは、早期の民政復帰と総選挙の実施を求める市民デモが各地で増えている。しかし軍政は、公共の場での5人以上の集会や政治宣伝活動などを厳しく取り締まっており、デモは強制的に収束させられている状況だ。総選挙を見据え9~月の間、政党による政治活動禁止措置を緩和する方針だが、5人以上の集会や政治宣伝活動は引き続き禁止になる見通し。
 軍政は昨年、国民投票を経て新憲法を公布した。新憲法ではタクシン派の政権奪取を阻止するため、単一政党が単独で過半議席を獲得するのを難しくし、軍人など議員以外でも首相になれる選挙制度に変更した。これにより暫定首相となっているプラユット氏が再任される道が残され実際、同氏は続投に意欲を見せ始めたという。また新憲法では、総選挙後も5年間は「移行期間」として軍が政治を主導するとしており、少なくとも年までは軍の影響が残る。
 ここにきて来年2月の総選挙の雲行きが怪しくなっているのは、国王の載冠式が大きく影響している。そもそも式を執り行うのかどうかを含め、決定は国王の専権事項とされ、その意向を誰も見通せない。ただ前国王の葬儀に1年前から準備するなど、王室を極めて重視するタイでは関連行事に時間を掛けることが必至。プラユット暫定首相が先ごろ、総選挙は載冠式の後になると発言したため、選挙実施が一気に不透明になった。
 この年間のタイのGDP成長率は平均3・2%。東南アジアで最も低い水準にとどまり、政府は産業の高度化を起爆剤に成長を取り戻そうと必死だ。タイ経済の趨勢は、最大の投資国となっている日本の経済にも影響を及ぼす。域内のリーダー国として発展を遂げるためにも、政治の安定が待たれる。

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