テルモは新型コロナウイルスの感染拡大を受け、治療や予防に関する製品の普及を積極的に推し進める。重症呼吸不全に陥った患者の呼吸機能を助ける体外式膜型人工肺や、紫外線(UV)照射により細菌やウイルスの増殖を抑えて院内感染を防ぐ装置で、医療現場からの引き合いが高まっていることから供給体制を整備し、今後の需要拡大に備える。テルモは「医療を止めないためにも製品の安定供給に最大限努める」ことを基本方針に掲げ。事業活動を推進している。グループの力を結集し、これまでに培った製品の新たな出口を増やす。
 心肺補助システム「キャピオックスEBSエマセブ」は、人工肺とポンプを用いて肺の機能を一時的に代行する「ECMO(エクモ)」と呼ぶ治療法で使用。新型コロナウイルスにより肺炎が悪化し、重度の呼吸不全になった患者が感染から回復するまでの間、生命維持を担う装置だ。
 今月10日、厚生労働省は都道府県に対し、「新型インフルエンザ患者入院医療機関整備事業実施要綱」の改正を通知した。そのなかで新型コロナウイルス感染症の記載が追記され、高度な医療技術であるECMOを実施できる環境づくりなど適切な医療提供体制の整備を求めた。こうした状況を踏まえ、テルモは増産も視野に入れた供給体制の構築を急ぐ考えだ。
 パルスドキセノンUVを当てて細菌やウイルスを短時間で効果的に消毒可能な「LIGHT STRIKE(ライトストライク)」も新しい感染対策として注目が高まっている。多くの医療機関では、ドアノブなどを手作業で消毒している。ライトストライクは病棟や手術室、壁やベッドの手すりなどに5~10分ほど紫外線を照射するだけで接触感染の予防強化が期待できる。水銀不使用のパルスドキセノンUVは密閉空間でなくても照射でき、利用可能な対象が広いのが特徴。熱が出ず、不快な臭いも少ない。
 新型コロナウイルスは壁や手すりなどの「無生物環境表面」でも9日間程度と長期での生存が可能なことから対策が不可欠となる。パルスドキセノンUVは、新型コロナウイルスに近いMERS(中東呼吸器症候群)のコロナウイルスに対する消毒効果を示す論文が南アフリカで発表されている。
 テルモは2017年、米ゼネックス(テキサス州)からライトストライクの日本での独占販売権を取得。同年9月から展開を始め、足元では広島大学病院や市立静岡病院など5施設に導入先が広がっている。希望小売価格はシステム一式で税別6000万円と高額にもかかわらず、薬剤耐性菌や手作業の拭き漏れ対策として導入が検討され、「20年度は20施設程度から購入要請が来ている」(テルモ)。
 新型コロナウイルスの影響で現在も追加の問い合わせが増えているという。新興感染症対策としても医療機関側で機運が高まっているもようだ。治療薬や検査キットの開発など先が見えない不透明な状況下で各社の対応力が試されるなか、日本を代表する医療機器メーカーの今後にも期待がかかる。(高橋篤志)

感染から回復するまでの間、肺機能を代替する「キャピオックスEBSエマセブ」(上)と紫外線照射によりウイルスの増殖を抑え院内感染を防ぐ「ライトストライク」

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