新薬開発の成功確率が年々低下、その打開策に「ドラッグ・リポジショニング」と呼ぶ手法が注目を集めている。開発を中断した物質の再利用や、既存薬を別の病気に応用する取り組みだ。iPS細胞やAI(人工知能)を用いた創薬が進展し、従来技術では発見できなかった新たな可能性がみえてきた。
 新薬開発は10年以上の期間を要し、成功確率2万5000分の1とハードルは高い。生活習慣病薬が開発し尽くされ、新薬ニーズはがん、認知症、難病や希少疾患に集まる。臨床試験はより複雑になり、国内製薬大手10社の平均の研究開発費は、2004年の621億円から17年には1414億円と約2・3倍に膨らんでいる。
 薬価を狙い撃ちにする国の医療費削減策も加わって、製薬大手の日本事業の収益環境は厳しく、新薬開発を効率化したいという思惑がドラッグ・リポジショニングを後押しする。過去に実施した基礎研究や動物実験、臨床試験を繰り返さずに済み、研究開発費を抑えられる。開発期間を2~6年に縮められるとの試算もある。
 好例は「PDE5阻害剤」と呼ばれる医薬品。血管を拡張する働きがあり、最初は勃起不全薬として成功し、その後、肺動脈性肺高血圧症、排尿障害に治療対象が広がった。こうした同じ作用の応用だけでなく、開発途上で足かせとなった副作用が治療に役立ったり、臨床試験で新たな薬効が偶然発見されたりするケースがある。
 既知の化合物の新たな可能性を見出すのにiPS細胞やAIが役立っている。京都大学iPS細胞研究所は、ある既存薬が進行性骨化性線維異形成症という難病に効果があることを見つけ、iPS細胞活用の創薬研究として世界初の医師主導治験を始める。米国食品医薬品局(FDA)の副作用情報データを活用し、より安全性の高い併用治療を探る研究も進む。
 新技術の活用は加速するだろう。次世代DNAシーケンサーの普及によって遺伝子発現を網羅的に迅速に解析可能となり、新薬開発に一度失敗しても遺伝子解析が新たな道を示す。AIは疾患や文献などあらゆる情報を学習し続け、新薬候補を導き出す精度が高まっていく。
 実用化から時を経て薬価が下がった既存薬を新薬として開発し直せば、高額に算定されかねないなど課題もある。AIの予測プロセスがブラックボックスであるのも懸念材料。ただ有効性や安全性に優れる医薬品をいち早く創出し、多くの患者を救う手段としてドラッグ・リポジショニングは有望だ。今後、さらなる発展が期待される。

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