「知は力なり」で有名な英国の哲学者フランシス・ベーコン。先入観や偏見を排し、実験や観察の結果から得られる知を集大成すべしと説いた。ルネサンス期の人だが、その後の科学技術の発展に多大な貢献をした。これも有名だが、ベーコンは人間の先入観や錯覚、偏見をイドラと呼び、4つのタイプがあるとした▼月の大きさが場所によって異なって見えたりする人間固有の錯覚が「種のイドラ」。井の中の蛙のように、経験や教育の浅さなどから来るのが「洞窟のイドラ」。噂など言葉の影響から生じる偏見が「市場のイドラ」。権威や伝統を無批判に信じることで生まれるのが「劇場のイドラ」である▼21世紀になった現在も、世の中はイドラに満ち溢れている。インターネットが普及したこともあり、市場や劇場のイドラはときとして猛威を奮う。厄介なのは、反証する事実を見ても無視を決め込み、自分が見誤っているとは思わなくなることだ。自戒したい▼ベーコン先生は、ほかにも名言を数多く残した。「金は肥料のようなもので、撒かなければ役に立たない」「徳性は宝石のようなもので、あっさりした台にはめこまれたものが最上である」など、比喩がうまい。「恋をして、しかも賢くあることは不可能だ」とも。哲学者はどうも、そっちの方のイドラには弱いらしい。(19・9・13)

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