景気変動の影響を受けにくく安定収益を見込めるとして、化学・素材各社が重点領域に据え経営資源を厚く投じるライフサイエンス分野。抗体医薬や再生医療といった先端分野の見通しは明るい一方、薬価制度の抜本改革が行われる製薬ビジネスは不透明な環境にあり、明暗が分かれている。
 これまで各社が成長投資の的にしてきたのがバイオ医薬品の製造受託。今年のノーベル賞に選ばれた本庶佑京都大学特別教授の研究成果が源流にある、がん免疫薬「オプジーボ」。同剤に代表される抗体医薬は、遺伝子解析を通じて標的分子が明らかになり、世界で相次ぎ新薬が承認されている。
 製薬会社は創薬研究に経営資源を集中し、製造は外部企業と連携することが増えてきた。こうした動きに着目し参入したのがAGC、富士フイルムホールディングス、カネカ、JSR、味の素など。抗体医薬の商業化が花開き、とりわけ今期に入り投資先行から利益を創出する成長ステージへと変ぼうした。
 抗体医薬に続く製造受託市場として注目を集めるのが核酸医薬。日東電工や住友化学、味の素などが市場拡大に備えて足場を築く。抗体医薬や核酸医薬の有用成分を効率的に取り出すための部材も不可欠で、こうした周辺分野も国内化学メーカーがシェアを伸ばす。先端医療を下支えする構図は遺伝子治療、再生医療へと続く見通しだ。
 一方で総合化学が傘下に抱える製薬事業の環境は厳しい。日本政府は薬価制度の抜本改革を断行し、2年に1度だった薬価改定を2021年度から毎年行う予定だ。米国でも、トランプ大統領が抗がん剤など高額薬剤の薬価抑制策を提案するなど風当たりは強い。欧州も膨らむ医療費の抑制は大きな課題だ。
 革新的新薬の開発を通じて得られる収益規模は、製造受託などに比べると格段に大きい。製薬会社の創薬対象はがんや神経疾患、希少疾患など有効な治療が存在しない病気が多い。難病を克服でき、社会に復帰できる可能性を提供できるからこそ薬価に付加価値が生まれる。創薬研究を続けることが次世代医療に挑戦できる機会にもなる。
 中長期戦略に取り組む化学・素材各社の首脳は、ライフサイエンス分野で成長投資を積み増す構えだ。先端デジタル技術の台頭は新たな医療技術を創出するとされ、医療のあり方が今後大きく変革する可能性もある。新事業を興すチャンスである。先を読み、いかに時機を捉えた投資を実行し、持続的な高成長を実現するか。経営の多角化やグループ戦略を得意とする各社の腕の見せどころだ。

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