「棲み分け」という言葉が当たり前に使われているが、そもそもは日本の霊長類学の祖とされる今西錦司博士が、生物界の構成原理として提唱した概念だ。近縁の二つの生物種が同じ地域に分布せず、境を接して互いに棲む場所を分けあって生存していることである▼今西博士は、霊長類学や生物学、登山の世界では有名だが、その外の世界では意外に知られていない。しかし近年、今西博士を折に触れ話したり書いたりしてくれる人がいる。京都大学の山極壽一総長である▼山極総長は今西博士の弟子の伊谷純一郎博士の弟子。今西博士の学統を受け継ぐ人で、ゴリラ研究の世界的権威である。その山極氏が「JACI/GSCシンポジウム」で講演した▼700万年の進化史を通じて、人類は信頼できる仲間の数を増やそうとしてきた。言語の登場に始まるコミュニケーション技術はその一環で、現代のICTやAIの登場はその結果である。山極氏は、感性から知能を分離して発展させたAIの急速な進歩に人間の心と体が追いつかず、様々なミスマッチが生じているという▼身体の五感を使った交流を社会の隅々に埋め込まないと、われわれは機械、または情報のかけらになると警鐘を鳴らす。そうならぬよう、科学技術はどんな貢献をなすべきか、真剣に考える時が来ている。(19・6・26)

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