植物由来原料や発酵技術などを駆使して作るバイオ化学品。古くは石油の輸入が困難な戦時中に、日本でも技術開発が進んだ。現在は「グリーン化学品」や「バイオリファイナリー」と呼ぶ。オイル・ショックや原油高騰時など、石油市場の異常時に話題に上ることが多かったが、平時のいま、欧米を中心に広がる「バイオエコノミー」の概念を原動力に、急速に存在感が高まっている。
 グリーン化学品の最大の課題は製造費の高さ。循環型社会への貢献が言われながらも広く普及しなかった原因だ。事業化には、原油や石油化学の市況低迷時でも劣後しないコスト競争力が不可欠。しかもトウモロコシなど可食原料も市況が乱高下する。グリーン化学品がサステナブルに採算を得るのが困難なのは当然だった。
 この壁を打ち破ったのが計算科学やAI(人工知能)などデジタル技術の進化。高収率を期待できる酵素を高速に設計したり、ライブラリーから見つけ出す。遺伝子編集によって代謝阻害物質に負けない酵素も作製できるようになった。先端技術を注ぎ込んで作製した菌株は、石油由来原料に勝てるコスト競争力を備え、まだ一部分だが石油由来を代替し始めた。
 グリーン化学が注目されるもう一つの背景が、生物資源とバイオ技術を用いて地球規模の課題の解決と経済発展の共存を目指す「バイオエコノミー」という概念が広まり始めたこと。国連は持続可能な開発目標(SDGs)を提唱。環境(E)、社会(S)、企業統治(G)に着目したESG投資の考え方も定着してきた。世界的企業は地球環境に貢献し、企業イメージを引き上げようとバイオ素材に熱い視線を送る。
 調査会社によるとバイオ由来製品の市場は2020年に4000億ドル前後に達する見通し。グリーン化学品に関する企業は世界に100社超あり、独BASFや米ダウ・デュポンも名を連ねる。ただ石油化学のように垂直統合されていない。非可食バイオマスの開発から遺伝子編集、酵素設計、工業化検討、商業生産と分業が進み、それぞれ専門企業が切磋琢磨するからこそ、競争力が向上してきた。
 日本でもグリーン化学品に力を入れる企業が表れ始めたが、BASFなどに比べ、いまだ関与度や投資水準は低い。バイオ化の流れは一時的ではなく、産業変革につながる大きなうねりだ。燃料油の需要減少もバイオ化を加速させるだろう。発酵技術は日本のお家芸であり、その蓄積は厚い。日本の化学・素材メーカーには、この潮流に乗り遅れないよう求めたい。

PDF版のご案内

新聞購読のご案内

コラムの最新記事もっと見る