スイス・ロシュは、新型コロナウイルス感染症治療薬として使われているバイオ医薬品「アクテムラ」について、向こう数カ月間、世界的に供給が不足する見通しを明らかにした。中外製薬が創製した抗体医薬で、関節リウマチなどの治療薬として使われてきたが、コロナ重症者にも一部有効とされて需要が急増している。コロナ特需でバイオ医薬向けの製造能力や原材料が不足していたことに加え、デルタ株による感染の再拡大で治療薬の需要が増え、供給が追いつかなくなっている。

 すでに在庫がなくなりかけているのが米国。デルタ株による感染が急拡大し、直近2週間で同剤の需要がコロナ前の5倍以上に増えた。ロシュ子会社で同剤を現地製造している米ジェネンテックによると、今月16日時点で点滴静注剤2規格が在庫切れし、残る1規格も今週中になくなる見込み。次回の出荷は今月末だが、感染拡大が続くと「今後数週間~数カ月は在庫切れになる」見通しを示している。関節リウマチなどに使われる皮下注製剤の在庫はあるが、コロナ治療薬としては未承認。

 原因は、世界的な需要増に対して製造能力や原材料が不足していること。コロナ治療向けの抗体医薬やコロナワクチンの製造を優先するため、製造設備や資材、原料などが世界的に不足し、取り合いの状況が続いている。アクテムラは6月に米国、7月に世界保健機関(WHO)で重症コロナ治療薬として緊急使用許可・推奨され、米国や途上国での需要が拡大。欧州でも審査が始まった。さらにデルタ株感染の蔓延で供給不足に拍車がかかった。

 中外によると、日本は現時点で出荷調整などを行う状況ではないという。日本でも年内にコロナ適応を承認申請する予定。

 アクテムラは中外の宇都宮工場(栃木県)を中心に製造する。昨年からの需要増を受けて、原薬製造だけだったジェネンテックの工場でも製剤化を行ったり、医薬品製造支援機関(CMO)を活用したりするなどして供給量を拡大し、能力はコロナ前から倍増した。中外によると、自社の製造能力をさらに増やす計画はないが、CMO活用などで供給回復を図る。

 供給量の約6割を占めるという途上国向けでは、中外とロシュが持つ同剤の特許権を破棄した。これにより現地のCMOなどがロイヤリティーフリーで製造することは可能になった。だが途上国の需要はコロナ前から4倍に増えており、供給が追いつかない見通し。

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