小規模住宅・建築物の省エネルギー基準の義務化が見送られることになった。2012年に義務化に向けた工程表が示されて以降、断熱材メーカーなどは300平方メートル未満の住宅・建築物も義務化される20年をにらんでの高性能品開発や供給体制の整備を進めていたが、はしごを外された格好だ。
 そもそも省エネ基準義務化が求められてきた背景には、地球温暖化対策としてのCO2排出量削減や、東日本大震災以降の電力使用量低減ニーズ、快適な住環境による健康生活の実現など多数の要素が挙げられる。快適な住環境がヒートショックによる死亡を減らすだけでなく、病気になりにくい健康な体作りにも役立つことも報告されている。パリ協定で掲げたCO2排出量削減目標を達成するためにも、遅れている家庭部門で低減を進めることは不可欠のテーマのはずだった。
 今回、義務化が見送られたのは、小規模住宅において省エネ基準適合率が60%(16年度)にしか達していない点などが考慮されたようだ。しかし義務化方針は7年ほど前から示されていたもの。この間、業界団体や断熱材メーカー各社などは全国の工務店を対象に、テキストの配布や講習会開催など努力を払ってきた。しかも求められるのは1999年に定めた“次世代省エネ基準”レベルであり、世界的にみても低い水準だ。英国では室温の最低推奨温度を18度Cとして、基準を満たさない賃貸住宅には改修・閉鎖・解体命令などが下されるほど。そのレベルの住宅、建築物が建てられない工務店がいるから義務化を見送るというのは、地球環境や人々の健康を守るという省エネ基準の目的からみて、あまりに無責任ではないか。
 幸い、市場では大手ビルダーやハウスメーカーを中心に、ZEH(ゼロエネルギー住宅)やZEHプラス、ライフサイクルカーボンマイナス住宅(LCCM住宅)など、省エネ基準の遙か上を行く断熱レベルが普及しつつある。ある意味、日本の住宅、建築物は断熱レベルでみて2極化してきたといえる。これら高断熱の物件が普及することで、断熱の重要性に対する認識が広がるという期待もある。
 省エネ改修については公的な補助金も付けられている。ストック住宅の高断熱化も省エネ、健康の両面で必要な施策といえるだろう。ただ関心の高い補助政策であるほど、一時に需要が集中し、供給問題が引き起こされるリスクがある。地球と人々の暮らしを守るためにも、国には住宅、建築物の断熱水準を適切に引き上げる施策を打ち出してほしい。

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