医薬品事業で獲得してきた技術やノウハウなどを生かして、健康食品を新たな収益源にしようとする動きが、製薬業界で広がっている。薬価に左右されることなく安定した稼ぎを見込めるだけでなく、各社が重要テーマとして掲げる「健康寿命延伸」に貢献する製品として注目していることも大きい。「治療」にとどまらず「予防」「未病」でも存在感を発揮できる大きな機会となる可能性がある。

 健康食品に対して最も熱い視線を送っているのがジェネリック医薬品(後発薬)メーカーだ。最大手の沢井製薬は今秋にも再参入する。柱とする後発薬事業と親和性の高い領域を対象に製品開発に取り組む。生産は外部に委託。販売は自社サイトを立ち上げ、直接提供するかたちでの事業化を構想する。

 東和薬品も、健康食品・サプリメント市場進出の準備を進めている。2020年には国立循環器病研究センターと提携し、植物由来成分「タキシフォリン」の認知症に関する医学的エビデンス構築を狙った共同研究を開始した。さらに今年に入り、健康食品を柱の一つとする三生医薬(静岡県富士市)の買収手続きを終え、完全子会社化した。

 富士製薬工業は、医療機関向けサプリメント事業への参入を打ち出す。第1弾として強みを持つ女性医療領域を対象に、2製品を秋までに発売する計画。

 新薬メーカーでは、抗がん剤「オプジーボ」で知られる小野薬品工業が名乗りを上げた。マルハニチロと組んで健康食品に参入する計画を先月発表した。イクラオイルから得たリン脂質を活用し、サプリメントとして製品化する。マルハが原料の供給と製品を担い、小野薬品の子会社が販売する。

 健康食品市場での優位性として、各社は医薬品事業で蓄積してきた経験を挙げる。その一つが、エビデンス構築力の高さだ。また小野薬品は長年の研究に基づく生理活性脂質の知見があることを、沢井製薬は生活習慣病など後発薬事業との相乗効果が見込めることを、それぞれ差別化ポイントとして訴える。

 健康食品は、医薬品に比べると参入障壁が低い。そのため市場が拡大基調にあるとはいえ、競争の激しさは言うに及ばない。広く消費者を相手にすることから、これまでとは異なる営業ノウハウも製薬企業にとって必要となる。

 製薬企業に対する信頼感に安住せずに、虚心に消費者のニーズと向き合い、商品開発を進めることが欠かせない。そうした先にこそ初めて「予防」「未病」「治療」すべてを担える新たな製薬企業の姿が見えてくるはずだ。

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