信越化学工業が米国で投資を拡大する。ルイジアナ州プラックミンに確保している広大な土地に、電解から塩化ビニル樹脂(PVC)まで一貫生産する新工場の建設に着手した。第1期では塩化ビニル樹脂(PVC)29万㌧(年産、以下同)、カ性ソーダ27万㌧を計画しており、投資額は14億9000万㌦(約1600億円)。2020年末の完成を目指す。同工場では14億㌦を投じ同社初となるエチレン設備も建設中だ。PVC世界最大手として「カントリーリスクが相対的に少ない」(同社)米国で積極投資し、圧倒的なコスト競争力により2位以下を突き放しにかかる。これまで順風満帆に見える米国事業だが、いくつもの壁を乗り越えてきた。さらなる挑戦に期待したい。
 100%子会社のシンテックは、信越化学と塩ビパイプメーカーだったロビンテックとの折半出資で1972年に設立された。ロビンテックは信越からの技術導入を希望していたが、当時ライセンス案件を担当していた金川千尋会長が両社を取り持ち、合弁会社としてシンテックを誕生させた。74年にテキサス州フリーポートでPVCの操業を開始するが、当時のPVC生産能力は10万㌧で、米国内シェアはわずか3%。13番手からの出発だった。その後、76年にオイルショックで業績が悪化したロビンテックの要請を受け、同社の保有株を買い取ってシンテックを100%子会社化。そして78年に金川会長がシンテック社長に就任し、快進撃をみせることになる。
 40年後の現在、PVCの生産能力は30倍に拡大し、シェアは4割近くに達する。今回投資を決めたプラックミンには28平方㌔㍍に及ぶ広大な用地を確保ずみで、第1期が完成すればシンテックのPVC生産能力は合計324万㌧に引き上げられ、2位以下を大きく突き放す。
 シンテックの快進撃を支えたのは、陣頭に立つ金川会長による市場の緻密な先読みと、ユーザーや原料メーカーとの深いネットワークにある。さらに2008年には岩塩の採掘権を獲得し、原料である工業塩の自社生産を開始したほか、もう一方の原料であるエチレンも、シェールガス由来の安価なエタンを原料に製造する計画で、原料競争力でも他を圧倒しそうだ。
 順風満帆に映るシンテックだが、これまでいくつもの壁を乗り越えてきた。80年代初期の塩ビ不況、90年代後半のコンベント工場(ルイジアナ州)の計画撤回(アディス工場に変更)などだ。今後、同業他社による新規参入や原料強化などの動きも予想される。王者シンテックの挑戦を見守りたい。

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