確か小学6年生の時だった。一人の女子が突如、なにかに取り憑かれたように奇声を上げ痙攣しはじめた。教室は騒然となり、誰もがわれ先に、と逃げ出し始めた。その刹那、一人の男子が彼女を抱き止め、転倒しないように床に横にさせた。ハンカチ、誰かハンカチを貸してくれと叫ぶ男子。女性教師の差し出すハンカチを女の子の口に押し込んだ▼それがてんかんという病気だということは後で知った。自分は恐怖と驚きのあまり、その場に立ちすくむことしかできなかった。普段、どちらかといえば冴えないその男子の行動に深い感銘を受けた。同時に、なんともいえぬ敗北感が残った▼4月生まれでませた子供の自分は、長らく学級委員を仰せつかっていた。そのため自分は頼れる強い人、できる人であると思い込んでいた。しかし、そうした思い上がる気持ちはあのとき一瞬にして崩壊した。本当の強さとは行動する力だよ。お前にはそれがないよ、と審判を下された心境だった▼シェークスピアが残した有名な言葉に「豊かさと平和は臆病者を作る。苦難こそ強さの母だ」というのがある。高度成長期の日本に生まれ、何不自由なく育った者には耳の痛い言葉だ。日本は今後、苦難の時期を迎えるだろうか。もしそうなら、今度は行動力を示し、あのときのリベンジをしたい。(18・6・19) 

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