「ピロリジジンアルカロイド類」と呼ばれる化合物への関心が国際的に高まっている。植物に含まれる天然毒素の一つで、食品として長期摂取することで重篤な健康被害を引き起こす可能性がある。日本で被害は報告されていないが、植物・作物の栽培技術や調理・加工技術の高度化にともない今後、意図せずとも含有する食品を多く摂ってしまうことも考えられる。進展著しい分析技術を駆使し、科学的知見を重視して注意深くウオッチしていく必要がある。
 ピロリジジンアルカロイド類は、キク科、ムラサキ科、マメ科などの一部を含む約6000種に含まれている。これまでに600種以上の化合物が知られている。ヒトや動物では肝障害の原因となる化合物や、動物実験で発がん性の確認された化合物も研究報告されている。
 無農薬栽培の農産物に対して「安心・安全」のイメージが消費者間に定着しているが、天然毒素に関わるさまざまな研究報告をみると「必ずしも、そうではないのではないか」という疑問が生じる。蝶や蛾などの一部の昆虫では、幼生時にピロリジジンアルカロイド類を含む植物の葉を食べると、成虫になって同アルカロイド類を含む植物の花の蜜を吸い、体内に毒素を蓄積して天敵から身を守ったり、性ホルモン原料に利用するといわれている。これら昆虫が害虫であることも考えられ、無農薬で作られる農産物に接触する機会も多くあろう。であれば、その無農薬で育てた農産物を飼料として与えられた家畜に、昆虫が分泌した毒素が移行する可能性も否定できない。
 こうしてみれば、試験を積み重ねてヒトや動物への安全性が認められ、実用化にいたった農薬を適正に使用して害虫駆除や雑草防除する方が、健康被害のない農産物の提供につながるとも考えられるのではないか。
 国際的な食品基準の策定など行うCODEX委員会は2014年、ピロリジジンアルカロイド類を含む植物が食品や飼料に意図しない混入を防ぐため、農地や牧草地の雑草管理に関する実施規範を策定。またFAO/WHO)合同専門家会議は、15年にハチミツ、ハーブティーを大量に摂取する成人には健康上の懸念があると評価している。農林水産省が行った国産のハチミツ、緑茶のピロリジジンアルカロイド類含有実態調査では、健康に悪影響を及ぼすリスクは無視できるレベル、緑茶では定量限界未満だったが、追加調査も検討している。天然毒素は、ほかにも多く存在する。必ずしも「天然イコール安全」でないことを国は消費者に啓蒙することが重要である。

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