クーデターによってタイで軍事政権が発足して今月で4年。プラユット首相率いる政権は総選挙を先延ばしにしてきたが、いよいよ来年2月にも実施される方向にある。地方を支持基盤とするタクシン派を封じ込めるべく、政権は新憲法を昨年公布した。タクシン派が単独で過半議席を獲得するのを難しくし、軍人など議員以外でも首相になれる選挙制度に変更した。総選挙後も、少なくとも5年は軍主導の政治が続く見通しだ。軍事政権が10年間も続けば民主主義は遠のく。経済でも中進国の罠から抜け出すことが覚束ない状況が懸念される。強権やバラマキに依存しない政治の復活が待たれる。
 この間、軍事政権は5人以上の集会を禁止するなど政治活動を厳しく取り締まり、それは今なお続いている。しかし総選挙に向け、3月に新政党の登録受け付けが始まり、6月には政治活動が解禁される予定だ。クーデターで政権を追われたタクシン派のタイ貢献党、クーデター前に野党第一党だったアピシット元首相率いる民主党など既存の政党をはじめ、プラユット首相を支持する親軍政党など新しい政党が6月から、こぞって活動を開始する見込みだ。
 プラユット首相自身は明言していないが、総選挙後も政治のリーダーを続ける覚悟を決めたように映る。軍事政権は「永遠愛タイ」と称して、1000億バーツ(約3460億円)近い予算を投じて全土で運動を行っており、総選挙をにらんだバラマキとの指摘が少なくない。あえてタクシン派と同じバラマキ戦術を採ることで、タクシン派の多い地方票を切り崩し、プラユット首相続投の基盤を整えるのが狙いとみられる。
 そもそも新憲法では、総選挙による民政復帰後も、移行期間として5年間は軍が実質的に政治運営に影響力を行使できるとされ、強権依存の政治体質は変わらない。6月以降、4年ぶりに政治活動が解禁されれば、長引く軍事政権に批判を強めるタクシン派や学生・活動家らによる抗議行動やデモの活発化が予想されるが、再び軍が力でねじ伏せれば、政治的混乱を理由に総選挙をさらに延期することも可能だ。どう転んでも軍事政権に有利となるよう準備されているようだが、ワチラロンコン新国王の動向も絡み、タイの政治は予断を許さない状況が続く。
 タイの経済は昨年、GDP成長率が3・9%と過去5年で最も高い伸びとなり、今年は4%台も期待される。巡航速度とされる5%台に回帰し中進国から抜け出すためには、国内の政治対立に時間とエネルギーを浪費している暇はない。

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