米中関係の一時緊張緩和に、先行き不透明感は拭えぬながらも、まずはほっとした人が多いことだろう。それにしてもこの数年、世界はトランプ大統領に翻弄され続けている▼大統領の個人的資質に負うところもあるだろうが、このような摩擦、緊張関係が世界各地で生じることについては、歴史的な考察にじっくりと取り組むことが必要である。文明論の名著を読むのはその有力な方法のはずだ▼「産業革命」という概念を初めて提唱したイギリスの経済学者トインビーの甥で、歴史学者であるアーノルド・J・トインビーの『現代が受けている挑戦』はその名著のひとつだ。「過去における経験は未来を照らすのに私たちに得られる唯一の光である」「人間に関して未知の要素は、人間の選択能力であることは明白」などの卓見を下敷きにして読書を進めながら、長いスパンの文明の歴史と未来を考えることは、情緒に振り回されずに世界を分析することに資するだろう▼翻訳は吉田健一氏。整然として明晰な文章である。とても、酒や肴のエッセイや小説『金沢』『東京の昔』などの切れ目のない、蔦がからまったような味わい深い文章を書いた人のものとは思えない。余談だが、彼は吉田茂元首相の息子であり、麻生太郎元首相の伯父。写真を見ると、伯父と甥はやはりよく似ている。(19・7・3)

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