2020年の中国ビジネスは新型肺炎の収束に伴い下期にかけてゆるやかに回復する。ただ、減収減益は免れそうにない――。化学工業日報社のアンケートでは日系化学企業の中国代表の6割以上がこうした見通しを持っていることがわかった。工場の稼働率も半数が5割以下と答えるなど、本格復旧にはほど遠い状況だ。中国での感染拡大はおさまりつつあるが、人の行き来の制限や供給網の混乱を受け、世界経済の停滞を懸念する声も増えてきた。
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 化学工業日報社は中国で事業展開する日系化学メーカーや商社の中国代表クラスに対し、新型肺炎の自社への影響や対応、今後の経済見通しなどについて緊急アンケート調査を実施した(実施期間は3月2~5日、有効回答数58社)。
 中国国内の感染の広がりは落ち着きつつあり、湖北省を除けば新規発症者は1桁にとどまる日も出始めた。足下の駐在員の中国への復帰については「ほぼ100%」が4割を超え、「70~80%」を含めると全体の64%に上る。他方、まだ1人も駐在員を戻せていない企業も1割あり、とりわけ、再赴任後の2週間の隔離措置が各社の判断に大きな影響を及ぼしている。


 駐在員を戻していても、オフィスへの復帰となると「ほとんど在宅勤務」「出勤、在宅勤務が半々」との回答がいずれも3割となり、本格再開には至らない。「管理や財務、配送人員はシステムなどの都合上、出社させているが、営業部隊は仕事もないため自宅待機させている」(メーカー)。


 春節(旧正月)前と比べ、営業や販売も回復にはほど遠く、5割以下との回答が全体の60%に上った。5割以下と答えた企業34社にその理由を聞いたところ(複数回答可)、「顧客やサプライヤーの稼働がまだ低い」が67%、「物流が滞っている」が58%と多く、「受注がない」も24%に上った。
 特に、エレクトロニクス分野の復旧が進まない。中国が一大生産地であるスマートフォンなど電子機器の部品の供給が滞っており、アップルは1~3月期の売上げ目標を達成できないとし、住友化学も情報電子事業の低迷を見込む。


 物流についてはこの間、省単位で一律生産停止や通行制限が敷かれてきたが、「国務院は細かい行政区分ごとに高・中・低の3段階にわけ、稼働や物流制限のメリハリをつけはじめている」(丸紅経済研究所の李雪連シニアアナリスト)。省・市をまたぐ際のドライバーの隔離措置の撤廃等も通じ、かなり改善されてきたとの声も多い。
 ただ、規制は緩和されても「そもそもドライバーやトラックが不足している」(専門商社)状況で、また、「山東省から3類の可燃物を上海に陸送しようとしたが認められなかった」(メーカー)など、現場では依然として混乱もみられている。


 工場の稼働率(回答数28社)についても5割以下が過半を占めるなど、本格操業はまだ先となりそうだ。その理由については6割の企業が「顧客やサプライヤーの稼働が低い」「物流が滞っている」と回答。大手化学企業の中国総代表は「物流に加え、工員が揃わず、末端需要も低迷しているため稼働はむしろ低下傾向にある」とこぼす。


 こうしたなか、20年の各社の事業は1~3月期は相当程度落ち込むことが確実な情勢だ。他方、通年の業績推移については「年央まで落ち込むが、下期にかけて回復。通年では若干の落ち込み」との回答が6割に上った。「自宅待機などの我慢疲れで、収束以降は消費が一気に盛り上がる」(商社)との期待も高まる。


 ただ、20年の業績見通し(売上高、営業利益ベース)では実に67%の企業が「減収減益」と予想。「ほぼ横ばい」とあわせると8割以上が事業の踊り場、停滞期を想定する。物流規制が敷かれるなかでチャーター便の使用頻度が上がったり、従業員の送迎などによるコスト増も悩ましいところだ。


 さらに、アンケートの自由回答では全体の実に2割にあたる12社が「仮に中国が落ち着いたとしても、日本含む世界での感染が収まらなければ、輸出などの回復が遅れる」との懸念を示した。みずほ証券の山田幹也シニアアナリストは感染拡大が世界で広がるなか、「東南アジアや欧米経済の低迷が足枷になり、中国の生産再開の足を引っ張る可能性が出て来た」と指摘する。(但田洋平)

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