新型肺炎が世界経済を揺るがしている。影響は中国以外のアジアや欧州にも波及し、株式市場も動揺をみせ始めた。感染拡大が長期化すれば、今夏の東京五輪に関連した消費などへの悪影響も避けられない。収束時期が見通せないなか、大和総研の神田慶司シニアエコノミストに日本経済への影響について検証してもらった。

 - 日本経済への影響を楽観、悲観の2つのシナリオで試算されています。
 「楽観的な標準シナリオとして流行が3カ月程度で収まり、4~6月期に正常化すると仮定した場合、実質国内総生産(GDP)の押し下げ幅は0・2%程度、約1兆円と推定した。滞った生産が正常化して増産に転じれば景気にはプラスに働き、下がったGDPも少しずつ押し上がる。年を通じてならせば影響は軽微だろう」
 「流行が1年程度続くというリスクシナリオに立つと、1200万人の訪日外国人旅客の減少や世界経済の減速、円高により、GDPの押し下げ幅は1・1%程度、約6兆円だ。0%台前半の成長しかできなかったところに1%以上の圧力がかかるため、短期では景気後退するような厳しい局面を迎える。なお、この試算には日本など中国以外の国・地域でまん延した場合の経済影響や、サプライチェーンの寸断、資金繰りが困難になった企業の倒産などは織り込んでいない。長引けば実際の日本経済への影響度はさらに大きくなる」
 - リスクシナリオでは為替で5円の円高を想定しています。この影響は。
 「為替ヘッジをしている企業も多いが、輸出が減少し、それによる設備投資減、内需への波及効果を勘案するとGDPの0・2%程度の押し下げ要因になるだろう」
 - そもそも、19年10~12月期の実質GDP(1次速報値)は前期比1・6%減と、市場予想を下回る内容でした。日本経済はすでに景気後退期入りしたとの見方もあります。
 「そうした向きもあるが、私たちはそうは考えていない。中身をみると増税だけでなく、台風による経済活動の停滞や、軽減税率導入にともなう企業の増税前の設備投資、暖冬で季節商材の売れ行きが鈍かったこと、一部の新車種投入の延期などの特殊要因が重なっている。米中間の緊張も幾分か緩和され、駆け込み需要の反動減と天候不順などの影響が落ち着く20年1~3月期の実質GDPは前期比でプラス成長に転じるとみるのが普通だろう。ただ、ここに新型肺炎の影響が加わるわけで、それが深刻化すれば2四半期連続のマイナスとなる可能性も否定できない。今後の景気後退リスクも十分考えられる」
 - 環境規制や米中摩擦、肺炎とチャイナリスクが拡大しているように映ります。中国からの生産拠点移転は加速しますか。
 「米中摩擦が続いてきたこの間、影響を避けるべく東南アジアへの移転が模索されてきたが、マクロ的視点からみれば極めて難しい。製造業に占める中国のGDP規模は圧倒的に大きく、企業単位では生産を分散できても、サプライチェーン全体の移管はわずか数年では不可能だ。今回の肺炎もいつか必ず落ち着く。現実的には、企業は痛みをともないながらも体制を維持することになるだろう」
 - マーケットは新型肺炎を楽観的にとらえてきましたが、株式市場も様相が変わってきました。
 「感染症はそう長くは続かず、収束すれば反動で企業収益も回復するというのが過去の経験則だ。米国では緊急事態に米連邦準備理事会(FRB)が利下げするので金融相場は維持されるという政策面での安心感もあった。ただ、欧州でも感染が広がり、ウイルスも過去にない類いのものだ。一時的にもリセッション(景気後退)を迎えるとの不安感が広がっている。感染拡大が長期化すれば悪影響も加速度的に広がるだろう」(聞き手=但田洋平)

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